「なぜ、生まれてきた…」
概要
2023年11月17日公開のアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の劇場作品。
TVアニメシリーズ第6期の前日譚であり、同時に『ゲゲゲの鬼太郎』(墓場鬼太郎)の原作者である水木しげるの生誕100周年記念作品でもある。
正式なタイトルは、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』と間にスペースが入る。
キャッチコピーは、『初めて明かされる、鬼太郎の父たちの物語』。
そのティザービジュアルは、「血のように赤い月が照らす墓場、土饅頭から突き出すとある赤子の手」というもので、6期らしいホラー要素が強調されている。
時系列としては『ぬらりひょん編』の動乱から6年後…に語られる過去回想という形式で、70年前の昭和31年(1956年)のとある山間にある哭倉村を舞台に、豪族の『龍賀一族』に起こる凄惨な殺人事件から鬼太郎の誕生へと続く物語である。
アニメ本編で度々ほのめかされていた「かつての目玉おやじ(鬼太郎の父)と水木の運命的な出会いと数奇な顛末」を描く。
なお、『鬼太郎』シリーズとしては異例のPG12指定作品(小学生以下には保護者の指導が必要)で、実際一部にグロテスクな描写がある他、現代社会ではタブーとされる行為が示唆されている。
事前告知
東映アニメーションは2021年3月7日、YouTubeの公式チャンネルで行われた生配信『まんが王国とっとり 生誕99年水木しげる生誕祭』の生配信において、水木しげるの生誕100周年を記念した4大プロジェクトを発表した。
『悪魔くん』の新アニメ化(『令和悪魔くん』)、キャンペーンプロジェクト『ゲゲゲ ゲゲゲの鬼太郎』、『水木しげる生誕100周年記念展覧会』の開催と共に、6期鬼太郎の新作映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の製作が発表された。
生配信でMCを務めた永富プロデューサーは、「鬼太郎の誕生を描く事の重さ。(誕生を描いた)原作があり、『墓場』で映像化されているものを、6期でどうやって描くのか。皆がぼんやりとだけ知っている鬼太郎の誕生、その謎をアニメ映画として描く事に是非挑戦していきたい」と、意気込みを表明した。
また、「この企画は東映単体のものではなく、水木プロダクションからの全面協力をいただきながら、しっかりとした歴史として紡いでいきたい」と抱負を語り、本作が6期の映画化というだけではなく、シリーズ自体の記念碑的な作品となる事を強調している。
ちなみに、「鬼太郎の父」としての目玉おやじが初登場したエピソードが存在する第6期を担当した永富プロデューサー曰く、「(かつての目玉おやじの姿の名前を)“目玉おやじ”ではなく、“鬼太郎の父”と書かせていただきました。ということは……?6期ファンの皆様は……以上でございます」「ぜひ“目玉おやじ イケメン”と検索してください」との事であった。
興行成績
監督曰く「ひっそりと上映されひっそりと終るつもりだった」という「ゲゲゲの謎」であったが、封切直後からSNSを通じて評判が広がり、週を重ねるごとに興行収入が伸び、東映上層部も「何が起こってるんだ」と戸惑うという予想外の事態となった。
通常、映画は封切の週が最も売り上げが良く、あとは緩やかに落ちていくものなのだが、「ゲゲゲの謎」は右肩上がりに上昇を続け、興行成績のトップグループに食い込み続ける。このため劇場によっては、急遽スクリーンを大席数のものへグレードアップする、上映回数を増やすなどの対応が行われた他、年末には大都市での応援上映が開催され、翌年1月には全国規模で行われるという盛り上がりを見せた。
そして2024年1月24日までの69日間で累計動員数は165万7991人、興行収入は23億6493万1870円を記録。この時点で上映期間は2ヶ月を超えるロングランとなっており、鬼太郎関連の劇場作品として2007年の実写版を超える成績を上げたことが報じられた。
2024年2月7日からは台湾と香港での上映も決定し、興行成績は更に上がる可能性がある。
受賞
第47回日本アカデミー賞において、優秀アニメーション作品賞を受賞。
本作品のベースとなった6期鬼太郎は『第57回ギャラクシー賞』のテレビ部門で特別賞を受賞しており、本編に次いで派生作品も賞を獲得する快挙となった。
2024年には第55回『星雲賞』のメディア部門にノミネートされた。他のノミネート作品にスパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースやアカデミー賞の受賞も記憶に新しいゴジラ-1.0も並ぶ中、受賞レースが注目されるだろう。
ストーリー
廃墟となっているかつての『哭倉村』に足を踏み入れた鬼太郎と目玉おやじ。
目玉おやじは、70年前にこの村で起こった出来事を想い出していた。
「あの男」との出会い、そして2人が立ち向かった運命について…
昭和31年―――日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族によって支配されていた哭倉村。
血液銀行に勤める水木は当主・時貞の死の弔いを建前に野心と密命を背負い、また鬼太郎の父は妻を探すために、それぞれ村へと足を踏み入れる。
時貞亡き後、その後継の座と遺産を巡り、醜い争いを始める龍賀一族。その最中、村の神社にて一族の1人が惨殺される。それは恐ろしく悍ましい悲劇の幕開けだった。
鬼太郎の父達の運命的な出会い。そして圧倒的な絶望の中で2人が見たものは―――
登場人物
※殆どの登場人物のリンク先はネタバレを多分に含むため、閲覧する際は注意!!
※編集者の方は編集コメントにネタバレになるようなことを書かないでください。
主要人物
かつての目玉おやじ。貴重な幽霊族の末裔。行方不明の妻を探すため事件の舞台となる哭倉村を訪れる。
東京の血液銀行に務める兵隊上がりの男。当代の龍賀家当主・時貞の死後、密命を背負い自身の出世のため一族に近づくべく哭倉村に向かう。
龍賀一族
龍賀家長女・乙米と克典の娘。哭倉村から出た事がなく東京に憧れている。水木に心を開く。
龍賀家三女・庚子と幻治の息子。身体が弱いが人懐っこく、水木や鬼太郎の父にもすぐに心を開く。
龍賀家の当主で龍賀製薬の立役者。彼の死後、一族で醜い跡目争いが始まる事となる。
龍賀家の長男。公家のような格好をした白塗りの男。
龍賀家の次男。村の禁を破ったため「心」を失い、現在は引き籠もって絵描きに没頭している。
龍賀家の長女。夫の克典との夫婦仲は険悪で、突然訪れた水木の事も良く思っていない。
水木の取引先である龍賀製薬の社長。乙米の婿として龍賀家に入った。
龍賀家の次女。若い頃に男と駆け落ちしたらしいが、現在は連れ戻されている。
龍賀家の三女。哭倉村の村長である幻治の妻であり、時弥の母。
哭倉村の村長。にこやかな顔立ちで、村人からの信頼も厚い。
龍賀家に仕える少年。お馴染みのあの男によく似ている。
現代
人間と妖怪の狭間で戦う少年の姿をした妖怪。幽霊族の王族の末裔であり、幽霊族の最後の生き残りの一人でもある。
現在の鬼太郎の父親。本来の肉体を失っても、息子への想いから目玉だけで生き延びた。ある想いを秘めて、鬼太郎と共に廃村となった哭倉村に赴く。
鬼太郎の仲間である、猫の妖怪の女性。
廃刊間際のとある雑誌の記者。鬼太郎の事を記事にするため、彼らに付きまとう。
用語
本作の舞台。東京から離れた山奥に存在する、龍賀一族が支配する村。龍賀一族の没落に伴い、70年後の現代では廃村と化している。
戦後の日本の政財界を裏で牛耳っていた豪族。とある重大な秘密を抱えている。
- 龍賀製薬
龍賀一族が経営する、太平洋戦争で大きく業績を伸ばした製薬会社。水木が取引を担当しており、物語の舞台装置の1つとして機能している。
龍賀製薬が特別な客だけに卸している秘薬。摂取すると、疲れもなく昼夜働く事ができる。製造は東京で行われているが、元となる原液は哭倉村で作られているそうで、その原料や製法はごく一部の者しか知らない。
鬼太郎やその両親が属する種族。古来より日本に数多く存在していたが、人間との諍いにより絶滅の危機に瀕している。
- 裏鬼道
かつて鬼道衆の宗派の1つだったが、禁忌とされる術に手を出したため、一族の裏切り者として破門された外法者の集団。哭倉村や龍賀一族とある関わりを持つ。
霊力によって捕えた獲物をできるだけ生き永らえさせながら、その血を吸い続ける妖樹。
哭倉村に巣食う怨念より生まれる妖怪。本作のキーパーソンの1つ。
反響
映画公開前から鬼太郎の父や水木の新しいキャラデザが刺さった人が続出したことでSNSで話題となっており、じわじわと注目度が高まっていた。
そして公開後、主にSNSの口コミによって大ヒット。
映画館に足を運んだが最後、どこか懐かしい昭和の空気、ゲゲ郎と水木の信頼関係、魅力的なキャラクター、声優陣の熱演、迫力のあるアクションシーン、PG12の表記に間違いない容赦なしのグロ描写、人の醜さと悪意の煮凝りの様な因習村、哀しく切ないながらも愛で締められたラストなど、大人向けの鬼太郎として刺さる人には刺さる要素がてんこ盛りだった事で多くの観客が沼に落ち、沼に落ちた観客が新たに人を呼び、ある種阿鼻叫喚なその様子に興味を持った者が観に行き沼に落ちる……という無限構図が完成した。
ただ謎解きに重点は置いておらず、何かトリックがあるよりは妖怪であったり異能であったりするため、ミステリー重視で見たファンにはお約束の光景にニヤリとしつつも捻りの無い展開に物足りなさを覚えた者も居た模様。
さらに、上記の「因習村」は映画公開日に作品名を差し置いてトレンドに上がったものの、SNSユーザーの中には「因習村という表現は田舎差別」と主張する者や、逆に因習呼ばわりを肯定する地方民もいる。
また、一族の因縁の凄惨さや水木らを襲う救いの無い顛末が多くの観賞者の悲痛を誘ったためか、SNS上ではその思いの丈をぶつけるが如くED後の水木と鬼太郎の姿や、全てが無事に解決された世界で平穏に過ごすゲゲ郞ら家族の姿(いわゆるIFルート)などを描いた作品が激増・投稿されており、さながら集団幻覚ないしは慰霊祭の様相を呈している。
余談
- 鬼太郎の出生については原作でもバージョンにより異なり、また各作品によっても表現が変化している。例えば、少なくとも江戸時代から活躍していたとされるバージョンも3つ(アニメ第3期、実写版、『決戦・愛宕山』)存在し、アニメ第5期に関しても蒼坊主とのエピソードから、江戸時代前後から生存しているという説があり、1-2期や4期の鬼太郎達も、かなり昔から生きている可能性が示唆されている。詳細はこちら(年齢)を参照。
- 本作の現代パートは時系列こそ明かされていないが、「昭和31年(1956年)から70年後」という設定から計算すると2026年に起きた出来事という事になり、時系列的にはアニメ最終回で犬山まなが鬼太郎達との記憶を失ってしまってから6年後、そして大人へと成長したまなと再会する4年前の話という事になる。
- またその場合、妖怪と人間の関係が最悪にまで陥った第二次妖怪大戦争の後という事になるが、山田や鬼太郎の会話からある程度人間と妖怪の関係は緩和されて来ていると推測される。
- 他、本人は「数えた事が無い」と答えていたが、6期における鬼太郎の大体の年齢(70歳未満)も本作により推測出来る様になっている。
- 龍賀一族について
- SNS上では作中で説明されなかった龍賀一族の過去やより詳細な人間関係、水木のその後などについて様々な考察が飛び交う状況となっているが、12月14日行われた舞台挨拶での監督の発言によると、一族にはそれだけでサイドストーリーが作れる様な裏設定があり、その内の幾つかはファンが考察した通りの内容であるとの事。
- コミックマーケット103にて、キャラクターデザインを担当した谷田部透湖氏が本作の同人誌を頒布した(外部リンク)。
関連イラスト
関連動画
外部リンク
関連タグ
2018年4月から放映された、本作品のベースとなっているTVシリーズだが、鬼太郎自身のデザインはテレビ放送時から変更されている。
本作品の略称。こちらでの関連作品のタグ登録もそれなりに存在する。
2008年に深夜アニメとして放送。鬼太郎の誕生を描いた原典であり、いわゆる『0期』的な作品だが、以降の『ゲゲゲの鬼太郎』と世界線が直接繋がっている訳では無い。しかし、本作には『墓場』のテイストが豊富に盛り込まれている。
ある意味での封印作品ではあるが、積極的な戦闘シーンやヒーロー然とした鬼太郎の描写など、水木しげる版に与えた影響も大きいため、戦闘シーンなどがある本作品は水木版の『墓場』よりもむしろ竹内版の『墓場』に近いとも言える。
2008年7月12日公開の実写映画。オープニングに鬼太郎と目玉おやじの誕生シーンが描かれる。
2008年12月20日公開の長編映画で、本作以前の最後のシリーズの劇場版であった。こちらはアニメ第5期の事実上の完結編の映画化となっているが、実質的には打ち切りに近い事情で作品が終了したため、「完結編」として『日本爆裂』が製作されたわけではない。
2023年11月にNetflixで配信された作品。4大プロジェクトの一角であり、34年ぶりの新作。『ゲゲゲの謎』が、主人公の父親の世代の過去を描くのに対して、『悪魔くん』は前作の主人公の子供世代を描くという対称性が見られる。
関連性を持つ他のKADOKAWA系作品
同年にNetflixで配信されたアニメ作品であり、こちらも17年のブランクから復活している。大映特撮と水木しげるには実質的にガメラがきっかけで生まれた深い関係性があり(こちらを参照)、過去には疑似的な共演やクロスオーバーもされている。調布市のイメージキャラクターにガメラと大魔神が鬼太郎たちと共に採用されているのも、海外の『ゲゲゲの鬼太郎ウィキ』にガメラと大魔神の記事があるのも、この関係性のためである。
ストーリーの展開などからこれらを連想する人々もいる。本作の音楽を水木しげる達が深く関わってきた『妖怪シリーズ』の作品を含め関連者の諸作品も担当してきた川井憲次が担当していたり、貞子とは外伝的な作品やイベントで鬼太郎と共演歴があるなどの側面もある。