概要
ハングルという名前は「大いなる文字」を意味するものであるが、この呼び方は専ら韓国で用いられるものである。北朝鮮ではハングルのハンが韓国の韓と同音である事からこの呼び方を避け、「朝鮮の文字」を意味する「チョソングル」と呼称している。
10の基本母音と11の合成母音の21音、14の基本子音と5の合成子音の19音、合計40音を2つないし3つ組み合わせて表記し、初声子音が19文字,中声母音が21文字,終声子音が27文字(終声子音がない場合を含めると28通り)なためその数は19×21×28=11172にもなる(その大半は実質使われていないが)。
ハングルというのはあくまでも文字そのものを指す言葉である。よってハングル語という表現は間違い(日本語を仮名語と言うようなもの)なのだが、朝鮮半島で使われる言語の名称(名称例:韓国語、朝鮮語、コリア語、韓国・朝鮮語・・・etc)に関しては議論があることから、便宜上この言語を指して「ハングル語」が使われることもままある(前述の通り、北朝鮮ではハングルと呼んですらいないので何の総括にもなっていないが)。NHKのハングル講座はその典型例である。
母音
字母 | ローマ字 | カタカナ | 字母 | ローマ字 | カタカナ |
---|---|---|---|---|---|
ㅏ | a | ア | ㅑ | ya | ヤ |
ㅓ | eo | オ | ㅕ | yeo | ヨ |
ㅗ | o | オ | ㅛ | yo | ヨ |
ㅜ | u | ウ | ㅠ | yu | ユ |
ㅡ | eu | ウ | ㅣ | i | イ |
- ㅗは日本語のオと大体同じ、ㅓはアとオの中間のような音。ㅕとㅛの違いも同様。
- ㅜは唇を丸めて、ㅡは口を横に引いて発音する。
子音
ハングル(韓国語)には清音・濁音の区別がなく、濁音は現象として現れるのみ。
子音は平音・激音・濃音の3種類がある。
- 平音…無気音。通常は無声音(清音)だが有声音に挟まれると有声音(濁音)になる。
- 激音…有気音。決して有声音にならない。
- 濃音…無気音。直前に「ッ」が入っているような感じの音。決して有声音にならない。
左側が平音、右側が激音。濃音は平音の字母を2つ並べて表す。
字母 | ローマ字 | 発音 | 字母 | ローマ字 | 発音 |
---|---|---|---|---|---|
ㅂ | b | パ行 | ㅍ | p | パ行 |
ㄷ | d | タ行 | ㅌ | t | タ行 |
ㄱ | g | カ行 | ㅋ | k | カ行 |
ㅈ | j | チャ行 | ㅊ | ch | チャ行 |
以下の子音には平音・激音・濃音の区別はない。
字母 | ローマ字 | 発音 | 字母 | ローマ字 | 発音 |
---|---|---|---|---|---|
ㅅ | s | サ行 | ㄹ | r | ラ行 |
ㅁ | m | マ行 | ㄴ | n | ナ行 |
ㅎ | h | ハ行 | ㅇ | - | ア行 |
パッチム
字母 | ローマ字 |
---|---|
ㅂ ㅍ | p |
ㄷ ㅌ ㅈ ㅊ ㅅ ㅎ | t |
ㄱ ㅋ | k |
ㅁ | m |
ㄴ | n |
ㅇ | ng |
ㄹ | l |
p・t・kは音声学では内破音というもので、子音を発音する直前の状態で止めたもの。わかりやすく言うと日本語の「ッ」に近い。
特徴
- 元々計画的に作られた文字(後述)であり、また表音文字である。
- 母音と子音という字母(文字パーツ)の組み合わせで構成されている。
- 1音節を1文字で表せる。このためほとんど例外なく漢字1文字をハングル1文字で表せる。
- 調音位置と調音方法によって分類されていて、似た発音の字母は似た字形になっている。
- 韓国語に相当する発音が無いため正しく表記できない音が多数ある。Z音はJ音で代替され、F音はP音かH音で代替される。言語自体に有声子音(濁音)と無声子音(清音)の区別がないので外来語の濁音も正しく表記できない場合がある。
- 初めの文字は濁音にならない。冬のソナタの登場人物が「カン・ジュンサン」だったり「チュンサン」だったりするのはこのため。
- 文字の下にパッチムと呼ばれる子音字母が付く(例えばよくある人名の"パク"は正確には[pak]"に近い発音となり、パッチム付きの一文字で表記される)ことがある。またパッチム付きの文字のあとに日本語で言うア行・ヤ行の音がくると連音化が起こる。また単語によっては(その前にくる語の)パッチムあり用・なし用がある。
- ㅇはもともと2種類の字母だったものが混同されてひとつになったため、初声とパッチムで全然違う発音になつている。
歴史
諺文(オンムン)だった頃
固有の文字を持たなかった朝鮮半島では、長らく中国から伝来した漢字が使われていたが、庶民層には理解できない者が多く識字率が非常に低かった。
このため、李氏朝鮮時代の第四代国王・世宗のもとで、簡単で庶民も分かりやすい文字(「訓民正音」の序文によると「漢語・漢文が使えない『愚民』のために作られた文字」)として考案され、1446年に「訓民正音」として公布された。
しかしながら当時の朝鮮では独自の文字を持つ事は「夷狄のなすこと」という認識だった為、当時の知識人からは「愚民文字」や「諺文」などと呼ばれていた。
訓民正音は臣下達の反対を押し切った世宗によって公布されるも、李氏朝鮮期を通して「無識の文字」「婦女子の文字」と蔑まれた。
特に十代目国王の燕山君は自身を誹謗する張り紙が各地で発見された事を切っ掛けにハングルを弾圧していた。
因みに朝鮮王朝実録の世宗25年12月の条に「ハングルを創製した」と記載されていた事から、ハングルという名称はすでにあったと考えられる。(世宗25年=1442年)
普及と改名
しかし福沢諭吉提案の朝鮮初のハングル混じり新聞「漢城週報」が1886年に発刊されたのをきっかけに、朝鮮人の間でこれまで軽視していたハングルの重要性が認識され始め、朝鮮半島が日本に併合された直後の1911年に朝鮮総督府は「諺文綴字法研究会」を発足させ、「普通学校用諺文綴法」を決定しこれを教科書として採用している。
実際、併合当初の朝鮮学校で使われていたハングル教科書も残っており、朝鮮併合期を通じて広く朝鮮人にハングルを広めたのは日本・朝鮮総督府であり、さらに併合後日本は朝鮮で初等教育の普及を行い、その中でハングルを「朝鮮固有の文化」と見なして、世宗によるハングル制定から460年以上経って初めてハングルの全国普及を行った。
朝鮮総督府は1938年より学校教育において、朝鮮語と日本語の選択を各学校で行うようにしたが、朝鮮人校長は率先して日本語を選択し、日本人校長は朝鮮語を選択する事が多かったと言われている。
また1939年まで朝鮮語の学習を奨励する「朝鮮語奨励費」が支出されており、併合から30年間日本は率先して朝鮮語学習を日本人にも奨励した。
因みに「ハングル」と呼称されるようになったのは1912年であり、それまでは「諺文(おんもん)」と呼ばれていた。
懸念からの政策と散々な成果
現在朝鮮半島全土でハングルが通用するようになったのは、この朝鮮総督府によるハングル普及に端を発する。しかし、併合直後の学校教育において同数だった朝鮮語と日本語の授業数は徐々に後者に比重が置かれるようになり、日中戦争が始まった一年後、朝鮮人の志願兵を募集するようになった1938年の第3次朝鮮教育勅令の公布時点では1:4にまで広がり、朝鮮語は必須科目から随意科目へ変更された。太平洋戦争が始まった1941年の勅令改定によって朝鮮語の授業は廃止され、国語(日本語)普及運動、それを更に進めた国語常用運動の始まりもあってその他公共の場での朝鮮語の使用が狭められていった。
上記のように36年間に及ぶ日本の支配下において、朝鮮語は学校教育で行われつつも、第二次世界大戦の激化に伴い推し進められるようになった皇民化教育や、三・一運動や韓人愛国団のような反抗を懸念しての弾圧などによって徐々に影響力を制限・漸減、最終的に統治末期には公共の場から排除されるようになったと思いきや、太平洋戦争真っ只中である筈の1943年時点で8割の朝鮮人が日本語を話すことが出来なかった。
この事から戦時中の懸念などで急に始めた付け焼き刃のような政策はあまり効果がなかったようだが、これが後に韓国内で「日本がハングルを奪った」という認識が生まれる切っ掛けとなったと考えられる。
漢字を廃する活動
韓国では建国した1948年から早々に、漢字を排斥しようとする動きが活発的に行われており、漢字の使用を制限する法律や漢字の教育を禁止する国策、そして学習の動機になり得る国内の漢字の使用頻度を抑制する活動が確認され、ハングル世代と呼ばれる漢字教育を殆ど受けて来なかった韓国国民が多数を占める事となった。
このような漢字を韓国から無くそうとする活動は、漢字を日帝残滓と認識していてそれ排除したかったといった感情的なものや歴史を改新して自国が偉大なものだった事にするといった思想的なものが主な動機となっている。
一方で北朝鮮は1949年に漢字を廃止していたのだが、1953年に外国語教育の形式で漢字が実施されるようになり、1968年には高等中学校での漢字教育が義務となった。
漢字を廃した代償
元々ハングルは仮名文字みたいに漢字と一緒に使う事を前提とした文字なのだが、こうした韓国内の固執や事情で漢字を捨てた事によって同音異義語が増えすぎてしまい、文脈や雰囲気で読むしかなくなってなくなってしまった。(例えば「放水」と「防水」はハングルだと「방수(バンス)」になる)
それは読み手の解釈次第でいかようにも捉えられる為に正しく意味を伝えられない事を意味していた。これは言葉・言語を伝達し記録するために線や点を使って形作られた筈の文字としては致命的で、同音異義語によっては問題や惨事の原因になりかねない。
また、ハングルが朝鮮文字として使われるようになったのは韓国が言う所の日本統治時代であり、それよりも前の時代の朝鮮半島は漢字が主に使われていた。
つまり韓国内の固執や事情で漢字を捨てる行為は自国の歴史や起源を正しく知る術を自ら放棄するようなものであり、歴史に関する客観的事実を証明する事が出来なくなる危険性がある。
因みに漢字教育を復活させようとする動きもあるのだが、その度にハングル学会などのハングル関連の団体によって止められている。
歴史の余談
それからハングルを異様なまでに称える人々が出始め、普及とは別の意味でハングルの存在が知られるようになった。
pixivにおいて注意事項
大半の参加ユーザーは韓国語に精通しておらず、ハングルを正しく読めません。
よって、作品投稿者はタグをハングルのもので埋めてしまわないよう、気を付けてください。