1の概要
マヨヒガ(まよいが、迷い家)は、山中に突然現れる無人の屋敷、あるいはその屋敷を訪れた者についての伝承の名である。この伝承は、民俗学者・柳田國男が現在の岩手県土淵村(現・遠野市)出身の佐々木喜善から聞き書きした話を『遠野物語』(1910)の「六三」「六四」で紹介したことにより広く知られるところとなった。
『遠野物語』によれば、この家は決して廃屋ではなく、無人だが「奥の坐敷には火鉢ありて鉄瓶の湯のたぎれるを見たり。」など、つい今しがたまで人がいたような生活感のある状態で現れる。
訪れた者はその家から什器や家畜など何か物品を持ち出してよいことになっており、持ち帰るとお金持ちになれるという。
しかし誰もがその恩恵に与れるわけではなく、「六三」と「六四」では結末が異なっている。前者の訪問者である三浦家の妻は、無欲ゆえに何も持たず帰ったため、後日山に繋がる川の流れに乗ってお椀が届けられている。彼女はこのお椀を米櫃の米を量る器に使ったが、それ以来米が減らず、村の長者になったという。一方後者の山崎の聟は欲をもった村人を案内したせいで、マヨヒガを再び見つけることは叶わず、富を授かれなかった。
以上の柳田の報告から現代ではファンタジーファン、ミステリーファンからの興味を呼び、以下のような新たな設定や解釈、または類話が生み出されている。
・マヨヒガは一種の山の神からのプレゼントをもらえるチャンスである。
・「何かを持ち帰らせるため」に出現するため、謹んで茶碗なりを戴いて帰るといいらしい。
・マヨヒガは一人の人間は一度しか遭遇することはなく、一度遭遇すれば二度と遭うことはない。
・「ある男がマヨヒガから持ち帰った瓶の中に子供たちのおやつの水飴を入れていた。いくら食べても水飴は減らず、6人の子供を立派に育てあげたという。」
ちなみに、柳田自身はこのマヨヒガを「伝説の系統及び分類」(1910)、『山島民譚集』(1914)や『一つ目小僧その他』(1934)で「椀貸伝説」の一種とみなしている。またマヨヒガについてではないが、異界に迷いこむ人間にはその者の「気質」が関係しており、迷い込みやすい家系などもあるのだろうと『山の人生』(1926)で推測している。
2の概要
1が元ネタであり、東方妖々夢2面の舞台になっている。
八雲紫と八雲藍が暮らしている屋敷とマヨヒガは同一ではないのだが、二次創作では「八雲一家が暮らしている家(場所)」=「マヨヒガ」、という設定であることが多い。
3の概要
こちらも1が元ネタで、妖怪がはびこる屋敷に連れて来られた少女が、影小僧の助けを借りて脱出する和風AVG。制作ツールはRPGツクール2000。即死要素はあるものの、ホラーゲームではない。EDは5種類。
作者の次回作である和風脱出ゲーム『オシチヤ』は、本作の直接的な続編ではないが、同じ屋敷が舞台の作品と見られる。
その他創作のマヨヒガ
小説
中川裕朗1985「迷い家」『四・三光年の地上で』河出書房新社
高橋克彦1986『総門谷』講談社
鷹羽十九哉1992.5『新釈「遠野物語」殺人事件』悠思社(以下『新釈殺人』)
立松和平1992.7『贋南部義民伝』岩波書店
和城弘志1993「迷い家」『海の落とし子 –和城弘志小説集-』青森県文芸協会
長尾誠夫1995「早池峰山の異人」日本推理作家協会編『あの人の殺意』講談社文庫
霜島ケイ1996~97『封殺鬼シリーズ マヨイガ』上, 中, 下 小学館
長尾誠夫2001『神隠しの村』桜桃書房
神谷明豆2002「マヨヒガ」『フーコー「短編小説」傑作選10』星雲社
仙道はるか2004『迷い家の里―柊探偵事務所物語』講談社X文庫―ホワイトハート
芦辺拓2005「殺人喜劇の迷い家伝説」『探偵宣言 森江春策の事件簿』講談社
樋口明雄2005「マヨヒガ」井上雅彦監修『オバケヤシキ 異形コレクション33』光文社
化野燐2009『迷異家』講談社ノベルス
三津田信三2009「迷い家の如き動くもの」『密室の如き籠るもの』講談社
藤崎慎吾2012『遠乃物語』光文社
マンガ
藤田和日郎1991「第十二章 遠野妖怪戦道行」『うしおととら』第6, 7巻 小学館
小山田いく1992~93『迷い家ステーション』全5巻 秋田書店
荻野真1993「迷家」『孔雀王 退魔聖伝』第11巻 集英社
大塚英志原作, 森美夏作画 旧版1997(新版2004)「マヨイガ考」『北神伝綺』上巻 角川書店
今市子2007「マヨヒガ」『百鬼夜行抄』第10巻 朝日ソノラマ
西条真二2011「迷ひ家 前・後編」『キガタガキタ! ~『恐怖新聞』より~』第3巻
押切蓮介2012「マヨイガ 前・後編」『ツバキ』第2巻 講談社
椎橋寛2012「第百八十五幕 恐山へ…」『ぬらりひょんの孫』第22巻 集英社
ゲーム
2002『水月』F&C
2003『零 紅い蝶』コーエーテクモゲームス
2005『迷家(マヨヒガ)の檻』マリンハート
2011『迷ヒ家ノ鬼』G-section ©SUNSOFT
アニメ
大橋志吉脚本「第87話 迷い家の倉ぼっこ」『ゲゲゲの鬼太郎』(第4作)