ピクシブ百科事典は2023年6月13日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴

目次 [非表示]

概要

数百年前に誕生した、神に仕える特殊な霊能力『倉院流霊媒道』を持つ霊媒師の一族。主に族長に当たる『倉院流霊媒道』の家元とその近親者を指す。本拠地にして一族の故郷『倉院の里』は東京の郊外にある。各地には『葉桜院』を始めとする遠縁の関係者が営む、寺社仏閣や霊術道場も構えている。霊媒師一族としては名門で、能力故に歴史の舞台裏に潜む形ではあるが、古来より政財界とも大きな繋がりを持ち、現代に至るまで栄耀栄華を極めていた。


しかし2001年の年末、日本を代表する難事件DL6号事件が発生し、翌年の2002年に警察から「極秘捜査への協力」を依頼されて引き受けた事が切っ掛けとなって、一族の歴史は狂い始めた。警察は現在の家元・綾里舞子を選出し「被害者を霊媒して、真犯人の名前を聞き出して欲しい」と依頼し、舞子はそれに従った。ところが呼び出した霊の誤解によって、無実の人間を起訴してしまい、裁判では無罪判決が下された事で「警察と綾里家の威信を掛けた極秘捜査」は失敗に終わった。事件関係者の1人が「この両者の歴史的失態という極秘情報」を漏洩させてしまい、雑誌記者の1人がマスコミにリークしたのが原因で、警察と綾里一族は歴史に残る大規模なバッシングを受ける羽目になった。


特に望まぬ形で、歴史の表舞台に初めて姿を現した上、元から人によって信憑性の度合いが大きく異なる、霊媒師という職業から「一族の霊能力は嘘っぱち」と喧伝された綾里家への痛烈非難は、警察を遥かに上回り日に日に熾烈化して行った。それに伴い綾里家も瞬く間に没落し、かつての栄光と裕福な生活が嘘の様に、世間からは迫害されて貧窮にも苦悩する身の上へと変わり果てた。こうして一族は繁栄時代から衰退時代に移行し、その元凶として全ての責任を押し付けられた、舞子への誹謗中傷は群を抜いて過激なもので、彼女は家元でありながら、世間のみならず一族の人々からも白眼視される存在となり、悲惨な現状に耐えられなくなった舞子は、2人の娘を故郷に置き去りにして行方を眩ました。


本来の次期家元は舞子の長女・綾里千尋だったが、彼女は「母親が失脚と失踪に至った事件の真相」を求めて、未来の家元の座も故郷も優れた霊力も捨てて、血の滲む様な努力を積み重ねて優秀な弁護士へと成長した。一連の家庭の事情から、次期家元の座は舞子の次女・綾里真宵が急遽、継承する事となった。この2人の姉妹が新米弁護士・成歩堂龍一と出会い、彼と協力して「全ての元凶DL6号事件」を筆頭に、綾里家の関連事件を全て解決して行った結果、徐々に復権が進みつつある。


『倉院流霊媒道』

綾里家に伝わる特殊な霊媒術。そのルーツは『クライン王国』にあり、同王国での研鑽の末に日本に帰国し、霊媒術を伝えたとされる綾里供子を創始者とする。霊力は綾里供子の血を引く女性にのみ受け継がれ、その中から家元は一子相伝で1人が選ばれる。それ以外の者は「分家」として扱われ、どんなに霊力が強くとも家元になる事は許されない。それ故に古来から一族間では権力抗争の末に「分家の人間が本家の人間を暗殺するという血生臭い歴史」が繰り返されて来た。


綾里一族の女性であっても霊力を全く持たない、もしくは霊媒師にはなれない程、霊力が弱い人物が誕生する事も時折ある。更に姉妹が生まれると、姉の方が妹よりも強大な霊力が受け継がれるのが通例で、綾里千尋綾里真宵はその好例と言える該当者である。一方2人の伯母と母に当たる、綾里キミ子綾里舞子は「例外中の例外」として名が挙がる。姉のキミ子は家元の長女でありながら霊力が絶無の反面、次女の舞子は生まれつき優れた霊力を持っていた。これを理由に特例措置として、キミ子は本家から分家へと追いやられ、舞子が家元を継承する事となった。


条件を満たした血筋であっても、霊媒を発現させるには天性の才能や集中力、厳しい努力と修行を生涯に渡って要する。なお家元候補は『クライン王国』での修行と儀式を受ける事が義務付けられている。


霊媒は独特の印を結んで祝詞を唱える事で発動し、霊媒された霊自身の意思か、勾玉を媒介にした「除霊の儀式」をもって終了する。呼び出す霊は素性は知らずとも、顔と名前さえ知っていれば誰でも呼び出す事が可能。霊の方から勝手に霊媒師に憑依するのは不可能で、霊媒師が自ら決定権を下さなければ冥界から出られない。その為、霊媒されない限り、霊が現世の情報を知るのは不可能となっている。最大の特徴として「霊媒師が自身に憑依させた、霊の生前の姿へと変身する事」が挙げられる。髪型と体の色素、着用している服は変えられないものの、霊媒師の本来の姿をベースとして、生前の霊媒対象とほぼ同じ容姿になる。髪型と服装は霊の個人行動によって変更可能である。霊媒対象の声も人格も生前そのままに再現される。


霊媒中の霊媒師の意識は完全に封印されており、憑依した霊は無制限かつ自由自在に振る舞える。どんなに優秀な霊能力の持ち主でも、憑依した霊の意思や行動への干渉や抑制は不可能であり「肉体の主導権は霊に掌握される仕組み」は誰にも変える事は出来ない。この性質故に危険人物が霊媒されると、憑依された霊媒師に何らかの攻撃や拘束手段を取るしかなくなる。最悪の場合、危険人物の霊が暴走した時は霊媒師を殺害して、その肉体から強制的に霊を追い出すしか対抗策が残されていない。


複数の霊媒師が同じ霊を憑依させようとすると、霊能力が強い霊媒師の方が優先されて憑依対象となる。また基本的には他の霊媒師が先に呼び出した霊を引き剥がして、自分の方に憑依させるのは不可能とされるが、この点に関しては霊力の強弱次第では一定の操作が可能と見られる。『3』の最後の事件では、ずっと春美が霊媒しようとしていた霊を、真宵が3日間にも及ぶ独占に成功した事もある。


勾玉

綾里家に伝わる秘宝で、使用者の霊力が込められている。『倉院流霊媒道』の紋章にも用いられており、作中では『家元の護符』や『家元の舞子の姿を描いた掛け軸』にも描かれている。綾里一族の者達は遠縁であっても、出生時から自分専用の勾玉を首飾りとする事が義務とされる。『倉院の里』の出身者では綾里千尋綾里真宵綾里春美が身に付けている。分家筋の寺院『葉桜院』の尼僧・毘忌尼葉桜院あやめも同じ物を着用している。勾玉は皆同じ大きさだが、色は1人1人異なる。首飾りは勾玉を中心として、左右には「修行の数の証となる白い数珠」が付属される。修行を積んだ数が多ければ多い程、白い数珠の数は増える仕組みで、平均的な数は真宵と春美と同じ4つとなる模様。千尋は霊媒師を引退して故郷を去った身であるが、未だに郷土愛は抱いている証として「白い数珠を取り外して、勾玉だけを糸で吊った簡素な首飾り」をスカーフの下から下げている。


真宵は首飾りとは別に、特別な薄緑色の勾玉をお守りとして持っていた。これに春美が霊力を注ぎ込み、成歩堂龍一に託した結果「サイコ・ロックの視認、利用、解除」が可能になった。


また綾里家には勾玉の家宝が幾つもあり、遠縁に当たる『葉桜院』にも『小勾玉』が安置されている。これは「小」という名前にして『八咫鏡』位の大きさがある。綾里一族の本家に奉られた『大勾玉』に至っては非常に巨大で『高菱屋百貨店』で開催された『倉院の里・秘宝展』に出展しようとするも、百貨店の入り口に突っ掛かってしまう程の大きさが原因で出展を断念された。


『倉院の里』

『倉院流霊媒道』の総本山であり、別名『霊媒師の谷』。その昔この地を拠点とする政治家・清木まさはるの祖先である清木家の領主が、日陰者にして少数派であった霊媒師達を、その力を狙う者や偏見から守って来たという歴史があり、現在でも地元警察でさえ清木家には頭が上がらないでいる。


成歩堂法律事務所』のある街からは電車でも2時間かかる距離にあり、携帯電話の電波は通じず、バスは朝・昼・夜に3本出るだけと本数がごく僅か。アニメ版では、DL6号事件の解決後は復興活動の一環として、観光ツアーが開催される様になり、その宣伝ポスターには「都心から電車で片道80分」と記述されていた。観光ツアーは日帰りと宿泊が選べる。土産物として『木彫りの熊』がある事から、野生の熊が出没する地域と思われる。


藁葺の民家が立ち並ぶ中、最も大きい家が『倉院流本家』に当たる綾里邸で、貧困に喘ぐ様になって以降も「和風の豪邸」として姿を保っている。邸宅には「綾里家の家宝」が幾つも貯蔵されている。邸宅の向かいには霊魂が宿るとされる家宝『倉院の岩座(いわくら)』なる巨岩が聳えていて、刻まれている長文の祝詞が読める。綾里邸の本堂にあり、霊媒師と依頼者が降霊の儀式を行う『対面の間』には前述の家宝『大勾玉』が奉られている。里の霊媒師達は『修験道の間』で日々修行に励んでおり、この部屋にも家宝が供えられている。だが、それは『お金のたまる100の方法』と題名通りの文章が延々と書かれただけの大型の布地で、前述の2品と違って神秘性が感じられない代物である。「綾里一族の歴史を物語る家宝」という点では『倉院の岩座』『大勾玉』と共通しているが、この2品が「栄光の歴史」を物語っているのに対し、悲しい事に『お金のたまる100の方法』は「没落の歴史」を物語っている。おまけに初登場から1年後には然り気無く『お金のたまる108の方法』に題名も内容も改変されたりもした。


本拠地『倉院の里』以外にも、全国各地に修行場が設けられているが、寂しい山奥にひっそりとある為か、その数は把握されていない。代表的な修行場『葉桜院』さえも、人里離れた豪雪地帯にある『吾童山』の山奥に人知れず建っている。アニメ版では『葉桜院』の近くには大きな枝垂れ桜が生えていて、数年前その木の下で美柳ちなみ尾並田美散は「ある誓い」を交わし、桜の木の根元に「誓いの証となる物」を埋めた事が明かされた。


食事は修行の一環として精進料理が中心であり、食生活の影響から春美はベジタリアンで肉類を苦手としている。母親から街へ繰り出すのを禁じられていた春美と異なり、自由な移動が許可されていた真宵は麓のラーメン屋を行きつけの店としており、彼女の味噌ラーメン好きのルーツとなっている。


綾里一族は霊媒を生業としているが、霊力は女性にしか受け継がれない為、父親等の男性陣は出稼ぎに出ている事が多く、作中では一族の男性の姿は何処にも見当たらない。『倉院の里』では完全な女性優位社会が形成されていて、必然的に隅に追いやられてしまう男性陣と、綾里家の女性陣は夫婦仲が上手く行かない事が多く、最終的には離婚してしまうケースが後を絶たない。後継ぎとなる女児が生まれると「お役御免」と言わんばかりに、夫が居場所を失くして里を去る事も少なくない。現に春美の父親は作中の描写により、前述の背景から里を捨て去った事が示唆されている。


『倉院の里』には「里を離れて20年が経過した者は「死んだ者」と見なし、該当者が家元だった場合、自動的にその座が次期家元に継承される」という風習がある。『1』の時点で現在の家元・舞子は里から姿を消してから既に15年が経過しているので、あと5年後には娘の真宵が家元を継承する事が確定している。


出身者


先祖

綾里供子

『倉院流霊媒道』の開祖にして、綾里一族の創始者。数百年前に死去しており、歴史の影に潜んで活動していた人物なので、人となりや活動内容を知る為の資料に乏しく、多くの事が謎に包まれている。綾里一族は本家であれ分家であれ、全員が供子の血を受け継いでいる。「供子(きょうこ)」という名前には「神に供える子供という意味」が込められている。現在も子孫一同からは「供子様」と敬称で呼ばれたり、過去に制作された家宝『七支刀を持った供子の黄金像』が今も『葉桜院』に大切に保管されていたりと、きちんと畏敬の念は払われている。


その反面「供子の魂が封じられている」という言い伝えのある家宝『倉院の壺』の扱いは「粗略」の一言で、通算3回も割られてしまっている。しかも罰当たりな事に、壺を割った犯人には彼女の直系の子孫まで含まれている。おまけに普段の置き場所は「綾里邸の縁側に面した、渡り廊下の曲がり角」で「さぁ割って下さい」と言わんばかりの状態にある。ここまで来ると今尚、供子の魂が封じられているかは眉唾物である。壺を割った犯人の1人にして供子の直系の子孫・綾里春美は罪悪感に苦しんだが、出会ったばかりの成歩堂龍一に「きっと供子様も狭い壺から出られて喜んでいるよ」と励まされて立ち直った。『倉院の壺』は不思議な因果から『逆転裁判2』第2話『再会、そして逆転』&『逆転裁判3』第2話『盗まれた逆転』の事件では重要な証拠品の1つとなった。


本家の出身者

綾里舞子

現在の『倉院流霊媒道』の家元で、千尋と真宵の母親。綾里一族としては珍しく、夫婦円満で幸福な家庭を築いた女性で、次女の真宵が物心付いた頃、夫に先立たれるまで連れ添った。夫の死後は2人の娘を女手一つで愛情を持って育てていた。温和な性格と慈愛の精神、優秀な霊能力の持ち主で、家元に相応しい長所を兼ね備えた人格者。「夫との死別、姉一家との確執」さえ除けば平穏な日常を過ごしていたが、それを崩壊させる出来事が起きる。


舞子は警察から難事件「DL6号事件の極秘捜査への協力」を要請されて、彼らの言われるがままに被害者の弁護士・御剣信を霊媒して犯人の名前を聞き出した。しかし被告人の法廷係官・灰根高太郎は「心神喪失を免罪符とする卑怯な法廷戦術」を用いた担当弁護士・生倉雪夫の手によって、無罪になると同時に社会的に抹殺されてしまう。この極秘情報をある記者が世間に大々的に報道したのが発端となって、警察と綾里家は国中から誹謗中傷を受ける羽目になった。世間のみならず、舞子は『倉院の里』の人々からも「一族衰退の元凶」と見なされて痛烈非難を受けた結果、完全に失脚。故郷でも居場所を失くした現状に耐えかねて、彼女は2人の娘を里に置き去りにして失踪してしまった。


2人の娘・千尋と真宵が危機に直面する、有名な事件が何度も発生したり、DL6号事件の解決後も一向に姿を見せようとはしない。舞子本人としては「綾里一族の名を汚した私には、娘に合わせる顔が無い」と考えている様だ。依然として足取りは掴めないものの、真宵には「母の生存確認を目的として、霊媒を試みるも呼び出せなかった事」から生存自体は確実視されている。


綾里千尋(メイン画像・左の女性)

舞子の長女。母親が失踪するまでの一連の事件を「母を破滅させた事件」と呼び、その真相を知る為に次期家元の座を自ら捨てて、大学の法学部に進学するのを契機に、故郷『倉院の里』を去って弁護士となった。「権力争いから姉妹仲が険悪化した母と伯母」を見て育って来た為、妹の真宵との抗争を回避したいのも里を去った理由の1つだった。スレンダー美人の多い、綾里一族の中では「突然変異」と言っても良い位のグラマラスな美女。聡明で落ち着いた性格を持った才色兼備の女性で、霊媒師としても弁護士としても、非常に優秀な人物と名高い。妹の真宵からも「本当に洒落にならない霊力だった」と太鼓判を押される程、霊媒師の才能にも恵まれていて、没落してしまったとは言え「名門霊媒師一族の長」として、生涯安泰の道を歩む事も可能であった。


それでも「母を破滅させた事件の真相」を追求する目的で、事件関係者の霊媒を通じて、情報漏洩の犯人の名前を聞き出したのを最後に、霊能力を封印し『倉院の里』を去って行った。この背景から故郷に帰省する事は皆無だったらしく、里を出奔してから誕生した、従姉妹の春美との面識も殆んど無い(開発者談)。妹の真宵と再会したい時は「彼女が自分の元を訪れる形式」で固定していた。「母を破滅させた事件」に対するトラウマから「霊能力を利用しての捜査や事件解決」は一度もしていない。人里離れた所に住む妹には「一時的に重要な証拠を預かって貰う形」でのみ捜査協力を担当させ、それを巡る話し合いが姉妹再会の口実になる事も多かった。『逆転姉妹』冒頭での2人の電話による会話も「証拠品の預かり」が話題とされている。


弁護士に就職してから5年後、ついに母を破滅させた事件の真相に辿り着き、真犯人の告発準備を進行していたが、それを察知した真犯人に先手を打たれて、無念にも27歳の若さで殺害されてしまった。千尋の唯一の弟子にして部下であった成歩堂龍一と妹の真宵は、千尋が殺害された事件を通じて出会った後にコンビを結成して、彼女の弔い合戦での勝利を皮切りに多くの難事件を解決に導いた。死後も真宵と春美に霊媒される形で、弟子の成歩堂の師匠と助手役を担い、まだまだ未熟な弟子、妹、従姉妹の3人を支えつつ、生前にも引けを取らない八面六臂の活躍を見せる。千尋が「事件解決の功労者」となった事件も多い。だが彼女の死の爪痕は大きく『123』の時代では、後に更なる事件の数々=不幸の連鎖を誘発する主因となってしまう。


綾里真宵(メイン画像・右の女性)

舞子の次女。母と姉とは正反対に霊能力は微弱で、既に10代後半にして一度も霊媒に成功した試しが無い。幸いな事に霊能力の低さから家族に冷遇される事は無く、逆に両親と姉から愛情を注がれて大切に育てられて来た。家族に恵まれたおかげで天真爛漫な少女に育ち、天才霊媒師と称される姉・千尋と従姉妹・春美への劣等感を抱かず、2人とも親密な関係を築いていて素直に敬意も表している。姉とは真逆の極度の天然ボケ娘だが、根本的には千尋に負けず劣らず、強い正義感と優しい心を持っている。いつも明るく前向きな性格に隠されているが、絶大な霊力の持ち主であった姉に代わって、次期家元になる事が定められた将来に不安を抱えている。


逆転姉妹』での裁判の終盤、成歩堂の助手を務めた際に必死で千尋に助けを求めた事で、生まれて初めて霊媒に成功し姉を自身に憑依させた。この時ようやく千尋は「母を破滅させて、自分を殺害した真犯人への復讐」を成し遂げた。その後は成歩堂の助手に就任し、捜査や裁判に行き詰まると「助っ人召還」として姉の霊媒をする様になる。千尋の霊媒は春美が助手に加わってからは、彼女と分担して行っている。作中では綾里家との関係の有無を問わず、多くの事件に巻き込まれては、様々な不幸に見舞われる身の上であるが、幾多の困難を乗り越えて色々な経験を積む事で、霊媒師としても1人の人間としても大きな成長を果たす。『3』での終盤の描写を見るに、霊能力は「大器晩成型」で潜在能力は高かった模様。


分家の出身者

綾里キミ子

舞子の姉で、千尋と真宵の伯母に当たる。綾里一族の本家の出身者でありながら、全く霊力を持たずに生まれて来た。妹の舞子の方が比べ物にならない程、優秀な霊能力者だった為、特例措置としてキミ子は分家へと追放され、舞子が家元を継承する事となった。この経歴から『倉院の里』の人々からは「姉なのに妹に負けた」「長女のくせに家元を継げなかった」と散々、侮辱されて生きて来た。その生い立ち故に舞子とは確執を抱え、彼女とは正反対の冷酷で屈折した性格と価値観の女性に成長した。「綾里家の繁栄時代」を長く見て育って来たのもあって、その頂点に君臨する家元になれなかった事に強烈な未練を持っており、妹の舞子への憎悪や嫉妬、劣等感もまた強い。家元の舞子が行方不明となってからは『倉院の里』の実質的な指導者の地位に就き、姪の千尋と真宵の面倒を見たり、後進の育成も精力的にこなす。


一人娘の春美を溺愛しており、彼女が優秀な霊媒師となれる様、厳しい英才教育も施している。その溺愛ぶりたるや「春美は私の宝物」が口癖となっていて、出会ったばかりの相手にも隙あらば言い出す始末である。作中では「春美の父親である夫に関しての話題」が一切見られない事、娘が生まれた時から母子家庭だった事から「春美は優秀な霊媒師の娘欲しさに、キミ子が一時的に関係を持った男性の子である可能性」が高い。春美の父親とは、まともに結婚していたかも疑わしい。キミ子が「とうの昔に離婚した相手だから」との建て前で、里の人々に彼に言及する事を禁じているのかもしれない。一見すると好意的に見えるものの、キミ子の態度や言動からは、娘の春美に対しても、姪の千尋と真宵に対しても、只ならぬ感情を抱いている節が見受けられる。


綾里春美(メイン画像・中央の少女)

キミ子の娘で、舞子の姪に当たる。母親同士が姉妹なので、千尋と真宵の従姉妹でもある。真宵とは姉妹の様に仲が良く、彼女からは「はみちゃん」と呼ばれて可愛がられている。母親のキミ子に厳しく育てられている影響で、子供離れした落ち着いた性格、礼儀正しさ、古風で丁寧な言葉遣いを持ち合わせている。母親の教育方針から『倉院の里』をなるべく出ない様に言い付けられている上、まだ幼いので真宵以上に俗世間の知識に疎い。純真無垢な心の持ち主なのは共通しているが、元気一杯な真宵とは対照的に穏やかな性格。「分家出身者の10歳手前の少女」という立場に反して「天才的霊力の持ち主」との呼び声も高く、次期家元の座が確定している反面、霊媒師としての自信の無さ故に、真宵には「春美の方が家元の資質がある」とまで言われている。『再会、そして逆転』での事件で成歩堂と初対面し、親交の深い真宵を通じて新たな助手に加わる。


『倉院の里』の歴代夫婦達の破局を見て来た生い立ち、真宵に成歩堂と出会う前から、彼の武勇伝を教えられて来た影響で「せめて真宵には幸福な恋愛をして欲しい。彼女に相応しい相手は成歩堂しかいない」という強固な思想を持つに至った。幼い少女らしく「恋に恋する側面」もあってか、既に2人は恋人同士とすら思い込んでいる。この思い込みの激しさ故に、成歩堂が美人の事件関係者に見惚れたり、形を問わず親密にしていると、即座に浮気扱いしてお仕置きする。お仕置きは睨み付けたり、お説教したり、仕舞いには彼にパンチやビンタを食らわせる等、多岐に渡る。その威力は普段のおっとりした姿からは想像も出来ない程に強く、青年の成歩堂もよろめく事すらある。これらの武力行使の被害者とされるのは成歩堂限定なので、この攻撃力は霊力と違って事件の捜査に役立った試しは無い。


関連タグ

逆転裁判 成歩堂龍一 霊媒師 勾玉 サイコ・ロック




















※この先、ネタバレ注意※


霊媒師一族の誕生と繁栄、衰退と再生

『倉院流霊媒道』誕生

数百年前、始祖たる綾里供子が霊能力に目覚めて以降、彼女の霊媒師としての実力と地位は次第に高まって行った。供子は『倉院流霊媒道』創始者となり、その魂は壺に封じられて『倉院の壺』と名付けられて以来、綾里家の家宝とされて来た。数世代後の子孫が活躍する時代に移行する頃には、政財界にも大きな影響力を持つ存在にまで昇格し、栄耀栄華を極めた。綾里一族は万人から理解され難い能力を持った存在である以上「歴史の舞台裏に隠れ潜む、神秘の一族という日陰の身」であらざるを得ないものの、その頂点に立つ家元の威光と繁栄は絶大なものであった。


「隠然と国の政治や歴史にまで、大きな影響を与える名門一族」として栄光の道を歩む一方、本家と分家の格差は激しく、先祖代々に渡って熾烈な権力抗争が繰り広げられて来た。本家こと家元一家となれるのは一世帯のみで、その中に入れなかった者は、どんなに霊力が強くとも家元になる事は許されず「分家として本家に忠誠を誓う使命」を生涯に渡って強いられて来た。家元の継承は今日に至るまで「完全なる一子相伝の形式」が取られ、就任出来るかの判断基準は「家元の母を持つ霊能力者」で固定されている。この様な背景から分家の人間達は常に、家元及び本家の人間達にとっては「都合の良い、召し使いや引き立て役」として扱われて来た。本家の取得する莫大な利益の一端も得られない分家は、家元及び本家に光が当たるのを陰で指を咥えて見ていた。


DL6号事件前後

時は流れ1970年代頃、当時の『倉院流霊媒道』家元には2人の娘がいた。長女・キミ子と次女・舞子である。本来であれば子供達の中では、最も強い霊力を持って生まれて来る、長女が次期家元とされるのだが、不運にもキミ子の霊力は皆無であった。反面、次女の舞子の霊力は卓越しており、安心して次期家元を任せられる力量を備えていた。この誰にも覆せない圧倒的な力関係によって、姉のキミ子は本家から分家へと追放されて、妹の舞子が次期家元の座を継承するという、一族の歴史的にも異例の事態が起きた。これが原因でキミ子は「姉のくせに霊力で妹に負けた」「長女なのに家元を継げなかった」と里の人々から陰口を叩かれ続けて来た。やがて舞子とキミ子にも結婚と出産の時が訪れるが、姉妹の人生の明暗は結婚生活においても大きく分かれた。


舞子は結婚後19歳で千尋を、29歳で真宵を産み、夫と2人の娘と共に円満な家庭を築き、死没した母親から家元の座を受け継いだ。真宵が乳幼児の頃、舞子は夫とは死別するも、彼の忘れ形見となった娘達を愛情を込めて育て、父親こそ不在だが幸福な家庭を保った。長女の千尋が次期家元に相応しい絶大な霊力を持っていたのに対し、次女の真宵の霊力は微弱で霊媒師になれるかも怪しい程で、姉妹間の霊力には埋めようも無い落差があった。それでも舞子は2人の娘を分け隔て無く育てたお陰で、千尋と真宵は健全な精神の持ち主へと成長し、大差ある霊力に惑わされる事も無く、姉妹仲も睦まじいものとなった。


一方キミ子は宝石商の男性と結婚し、双子の姉妹ちなみあやめを産んだ。結婚前後から彼女は「自分の娘を家元にする野望」を抱く様になり、この双子の娘達にも最初は目を付けていたが、霊力を持っていない事に失望したキミ子は、ちなみとあやめを冷遇する様になった。2人の父親の宝石商も、綾里家の権力目当てにキミ子に接近し、結婚しただけの酷薄な男性で「妻子には家元となる見込みが無い」と知ると、彼女達への冷遇を始めた末に無関心となった。それでも「未だに繁栄の続く、綾里家の家元の姉一家」であるだけに、一定の権力や利益は獲得出来ていた為、キミ子の夫は離婚するつもりは無かった。この冷え切った宝石商一家の幸福は裕福な生活だけで、生まれつき優しい心を持っていた次女のあやめを除いて、家族に愛情を抱いている者はいなかった。そして、とうとう家族間の亀裂の決定打となる出来事が起こる。


2001年12月28日に発生したDL6号事件で、警察に極秘捜査への協力を要請された舞子が被害者・御剣信の霊媒に失敗したのだった。この2002年に起きた失敗の本当の原因は「信は気絶している間に殺害された為、事件当時の状況から最有力容疑者とされた、灰根高太郎を真犯人と勘違いしただけ」であり、舞子本人には何の落ち度も無かった。そんな事もお構い無しに当時のマスコミは「このたった1度の失敗」を面白おかしく一大スキャンダルとして取り扱った。その悪影響により、誕生以来ずっと名門一族として栄華を誇っていた、綾里一族は世間から大バッシングを受けて、あっという間に没落してしまう。その責任を問われた上、世間からは激しい誹謗中傷を受け、親族からも見放された舞子は惨状に耐えかねて失踪する。残された2人の娘の片割れの千尋は「母を破滅させた事件の真相」を追うべく、次期家元の座を放棄して、一族の人々に対して表向きには「キャリアウーマンになる」と語って弁護士を志して猛勉強を始めた。もう1人の真宵は姉から自動的に次期家元の座を継承する。


キミ子の家庭でもまた、宝石商の夫から『倉院流霊媒道』の権威失墜を受けて「こんな田舎にいる理由は何も無い」と離婚を切り出され、彼はちなみとあやめを連れて里を出て行ってしまう。ちなみはそのまま父親に引き取られ、苗字が父方の姓となり「美柳ちなみ」という名前に変わった。そして父親の再婚に伴い、再婚相手とその連れ子の勇希が義母と義姉に加わり、新生した美柳家にて次女とされたちなみは、実父と義母によって養育される身となった。一方、父親の「子供は少ないに越した事は無い」との判断で、あやめは『葉桜院』に預けられ、寺院を1人で切り盛りしている住職・毘忌尼が親代わりとなって育てた。父親の実家である美柳家とは絶縁状態となった、あやめは美柳姓を名乗る事が難しい身の上となり、便宜上の名前は「葉桜院あやめ」となった。夫も娘も失い、尚も家元の座を諦め切れなかったキミ子は再婚し、春美という娘を授かる。この春美こそ、正しくキミ子の求めていた「天才的な霊力を持って生まれた娘」であり「来るべき時」の為に、箱入り娘として溺愛する上で厳しい英才教育を施す。


当時の綾里家は「DL6号事件を切っ掛けに家庭崩壊した」と言えよう。この時代の親世代である舞子とキミ子の行動、子世代の千尋と真宵、ちなみとあやめと春美を取り巻く家庭環境が、娘達の人格形成と以降の人生に大きな影響を及ぼした。


子世代の娘達の成長

千尋は「名門大学の法学部入学」を目指して猛勉強する傍ら、唯一人の家族である妹の真宵を可愛がりつつ面倒を見た。真宵は生まれて間もなく両親と離れ離れになる不幸を体験したものの、苦労しながらも自分の世話をしてくれる、姉を心から慕う純粋な少女へと育って行く。本心では「次期家元の筆頭候補である2人の姪を排除して、自分の娘の春美を次期家元に据える野望」を持つキミ子も世間体を気にして、綾里家のこれ以上の転落を許しては元も子もないと考え、表向きには問題無く千尋と真宵の母親代わりを担った。一族失脚から6年後の2008年、千尋は大学進学を契機に『倉院の里』を去った。真宵は故郷に1人残される身となるが、翌年の2009年に生まれた従姉妹・春美を妹代わりとして溺愛する様になり、2人は「仲睦まじい姉妹同然の間柄」となって深い絆が育まれる。


キミ子の娘への溺愛が「未来で野望実現の道具にする時に備えて、洗脳目的も含んだ歪んだ形」なのに対し、真宵の従姉妹への溺愛は「文字通り春美を家族扱いし、彼女の幸せを願い親切に接する真っ当な形」であった。母キミ子の支配下にいながらも、春美が純粋な心の持ち主に育ったのは「姉代わりとなってくれた、真宵による多大な好影響の賜物」である。


『倉院の里』を去った後、父親の再婚によって引き離された双子の姉妹・ちなみとあやめは、それぞれ養育先では「天地の差」と言える扱いを受けた。依然として娘達に無関心な父親と、その再婚相手の義母からも満足に愛情を受けられず、義理の母と姉の顔色を伺う事を余儀なくされる、美柳家という冷たい家庭の中ちなみは荒んで行き、後の世で「母親が母親なら娘も娘」と一蹴される程、冷酷非情な利己主義者に成長する。義姉の勇希が「家庭内で孤立する義妹ちなみ」に同情を寄せる様になっても、何の救いにもならなかった。「ちなみが家族として認めていた相手」は双子の妹あやめだけで、この双子は別々に暮らす様になって以降も密かに連絡を取り合い、歪な姉妹の絆と協力関係を維持していた。


双子の姉とは正反対に、養育先の『葉桜院』にて「事実上の義母」となった毘忌尼に実子同然に扱われ、愛情を注がれて養育された結果、あやめは清楚で心身共に美しい女性へと成長を遂げた。彼女だけは未だに別離した両親と姉への愛情を捨て切れず、それ所か「私1人だけ新しい家族からの愛情を受けて、家庭に居場所を見つけられず、孤独な存在になって行く姉に申し訳ない」という罪悪感に苦悩する様になっていた。そんな妹の行き過ぎた同情に付け入り、ちなみは彼女を共犯者に加えて、家族愛の欠落した父親への復讐を目論む余り、道を踏み外して凶悪犯罪者へと身を堕とす。


美柳姉妹による狂言誘拐事件(『逆転裁判3』第4話『始まりの逆転』)

ちなみは若干14歳にして「宝石商の父親への復讐目的での狂言誘拐」を計画し、自分の境遇に同情する者達の優しさに付け込み、彼らを共犯者に引き入れた。共犯者とされたのは、双子の妹のあやめ、警官である義姉の美柳勇希、家庭教師の尾並田美散の3人であった。尾並田に関しては最初から捨て駒にするつもりで誘惑し、自分の表面上の魅力に心奪われた彼とは事前に交際し、完璧に洗脳下に置いた上で「お互いを死ぬまで裏切らないという、2人だけの秘密の誓い」まで交わしていた。犯行現場には『葉桜院』の近くにある『吾童川』に架かる『おぼろ橋』が選ばれた。当初の計画は「尾並田が誘拐犯役、あやめが人質役、勇希が交渉人役を担い、宝石商の父親を脅迫して「身代金の代用品・時価2億円のダイヤ」を強奪後、換金して4人で山分けする」という内容だった。ところが直前になって「父親への脅迫、犯行への荷担」に罪悪感を覚えたあやめが1人で逃げ出してしまい、急遽ちなみが自ら人質役を演じる事となった。


そして迎えた狂言誘拐の実行当日。ちなみは父親を脅迫して騙し取ったダイヤをリュックに入れて、尾並田と共に『おぼろ橋』の上で勇希を待った。勇希は現地に到着すると録に交渉もせず、突如として尾並田を裏切り発泡し、ちなみ救出を強行しようと彼に銃を向けて迫る。パニックを起こす尾並田の側で、ちなみは『おぼろ橋』の横から『吾童川』へと飛び込み、そのまま死を装って蒸発した。彼女は激流の『吾童川』を自力で泳いで生き延びると、リュックの中のダイヤを独占・換金して生活費に充てた。警官の勇希には自身の戸籍の改竄を指示し、戸籍上では「美柳ちなみは死亡者」とされ、実際は生存者であるちなみ本人は「無久井里子(むくいさとこ)」という別人に生まれ変わった。こうして彼女は念願だった「父親に復讐を果たした上で絶縁し、彼の元を離れて裕福に暮らす第二の人生」を手に入れて、影からは勇希の支援も受け続けて、悠々自適の優雅な生活を満喫した。


ちなみが理想の暮らしを送る反面、美柳姉妹に裏切られて全ての責任を押し付けられた、尾並田だけが犯罪者認定を受けて逮捕され、彼は単独犯として裁判に掛けられる羽目になった。尾並田の裁判に証人として出廷した勇希は「義妹の救出に失敗した悲劇の警官」を演じ、彼女の一連の証言が決定打となって「尾並田は少女を誘拐し多額の身代金を入手しようとした挙げ句、人質の少女を川に突き落として殺害した凶悪殺人犯」と見なされて死刑判決が下された。彼が死刑囚という、この世の最底辺にまで転落する一方、勇希は誘拐事件の犯人を逮捕した功績を称えられ、若くして巡査部長にまで出世した。それから暫くして「尾並田の死刑は事件から5年後の2012年2月に執行する」と決定した。


千尋の新人弁護士時代(『逆転裁判3』第4話『始まりの逆転』)

志望校に入学した千尋は熱心に勉学に励むのと同時に、充実した大学生活を送っていた。尊敬する先輩・宝月巴と交流し、流石に首席卒業まで果たした彼女には敵わないものの、優秀な成績を修めた結果、大学卒業直前には大手の法律事務所の所属も決まった。それは「母を破滅させた事件」での情報漏洩の犯人の1人・星影宇宙ノ介が所長を務める『星影法律事務所』であった。千尋は大物弁護士と名高い、星影の情報を探る目的で彼に弟子入りし、そこで数年前から星影の一番弟子だった神乃木荘龍と出会う。ベテラン弁護士の師匠・星影、若手実力派の先輩・神乃木の2人に熱意と才能を見込まれた千尋は、彼らの指南を受けて着実に力を伸ばして行った。その後ついに彼女が弁護士としての初舞台を踏む時が到来した。


何の巡り合わせか、千尋は初裁判にて尾並田の担当弁護士となった。彼は死刑執行の直前、護送中の事故に乗じて脱獄し、死ぬ前に勇希の真意を知りたい一心で、彼女を電話で呼び出し『おぼろ橋』で再会し会話を終えると下山した。その直後、尾並田が脱走に利用した盗難車のトランクの中から、勇希の刺殺体が発見され「私怨から彼女を殺害した容疑者」として尾並田は再逮捕されたのだった。これまでの罪状からして「尾並田の担当弁護士にとっては、必ず負け戦となる裁判なのは明白」であるだけに、誰も彼もが担当を避けた結果として、新米の千尋に依頼が回って来たのだ。彼女は「今も昔も誰も殺していない」と切実に訴える尾並田の無実を信じ、頼れる先輩にして助手役を引き受けてくれた、神乃木に支えられながら初裁判に挑む。


勇希を殺害し、その罪を尾並田に着せた真犯人はちなみであった。勇希は尾並田の死刑執行の日が近付くにつれ、罪悪感に苛まれる様になり、狂言誘拐の真相を全て世間に公表しようとまで考えていた。その最中に彼から「最後の話し合いがしたい」と連絡を受けた勇希は誘いに応じ、義妹ちなみにも誠意ある対応をすべく、事前に彼女に全ての事情を話した。義姉から話を聞いたちなみは「勇希と尾並田を2人纏めて口封じする」と決断し、現場に先回りして義姉を殺害すると、彼女に成り済まして尾並田と再会し、当たり障りの無い会話を終えて、彼と別れた直後に警察に通報し、尾並田を死刑台へ導こうと画策したのだ。その計画の仕上げを目的に、ちなみは「無久井里子という名前を持つ、犯行の目撃者である証人」として名乗り上げ、尾並田の裁判に出廷するのだった。


この裁判にて千尋とちなみは初対面する。彼女達が共に『倉院の里』で暮らしていた頃は母親同士が険悪な関係にあった為、従姉妹同士でありながら、隔離された環境で育てられて来たと見られる。千尋の母・舞子が「姉一家との衝突を避けよう」と配慮して、娘達には姪のちなみとあやめの存在を黙秘していた反面、ちなみの母・キミ子は「分家は本家を敬うのが義務だから」と娘達には妹一家の存在を教えていた様だ。「私にとっても綾里家にとっても、霊力を持たない2人の娘は更なる恥を招く」との危惧から、ちなみとあやめの存在自体を秘匿にしていた可能性もある。以上の背景から「綾里姓の弁護士」だと知った時点で、ちなみは千尋の正体を察して、彼女に名前を確認すると「そう、あなたが‥‥」と意味深な反応を示した。当時の千尋は妹の真宵共々「私の従姉妹は春美しかいない」と思い込んでいたので、ちなみの反応が何を意味するのか気付けずにいた。


裁判が進行するに伴い、千尋はちなみを問い詰めて行った結果として、ちなみの正体と犯行、彼女の起こした一連の事件の真相の解明には成功する。だが「ちなみの罪を立証する、決定的な証拠の欠如」が原因で、最後の難関に直面してしまう。この状況を打破する最終手段として、千尋と神乃木は「尾並田に証言をさせて、ちなみの犯行だと自白を引き出す事」を裁判官に提案する。この提案は即刻、裁判官からの許可を得て、休憩時間を挟んで実行されるに至った。その合間にちなみは遠回しな物言いを用いて、要約すると「過去に交わした誓いを果たす時は今だ」と示唆して尾並田に暗示を掛ける。改めて彼女に洗脳を強化されてしまった尾並田は、尋問では真相を悟りながらも「一途に愛するちなみを庇う発言」に終始し、弁護側の期待していた成果は得られず終いとなる。「彼の心変わりさえ実現すれば勝利は掴める」と確信して、千尋はもう一押しだと更に尋問を続行しようとする。その時に突然、尾並田は吐血した。


尋問開始前、彼は過去にちなみと交わした「お互いを信じられなくなったら、毒薬を飲んで心中する誓い」に従って、隠し持っていた毒薬を飲んでしまっていたのだ。この液状の毒薬は「ガラスの小瓶付きペンダント」を容器としていて、5年前に誓いの場所とされた『葉桜院』の近くに生えた、枝垂れ桜の木の下に埋められた物だった。ここに尾並田は脱獄の途中で立ち寄り、彼女の言い付け通りペンダントを回収して、密かに毒薬を携帯していた。ちなみの方は彼と心中する気は毛頭無く「ただ尾並田を自分の都合の良い様に行動してくれる、手駒にする為に「心中」を洗脳の口実として利用していただけ」であった。彼女の庇護を目的に、尾並田は服毒自殺を遂げて自らの口を封じた。ちなみは彼に自殺教唆する事で告発寸前で逃げ切り、尾並田の悲惨な最期を見届けた後に美しく微笑んで退廷した。法廷にいた全ての人々が真相を知る状況下、被告人が死亡してしまい、裁判は勝敗の付かないまま幕切れを迎えた。千尋と同じく、今回の裁判が初舞台だった担当検事・御剣怜侍も「私が未熟だったせいで被告人を死なせてしまった」と自責の念に駆られてトラウマを抱える結果となった。それは千尋も神乃木も同じだった。


ちなみの逃走劇

千尋と神乃木は「ちなみの逮捕」を目指して協力関係を結び、彼女に関する事柄を徹底的に調査する日々が幕を開けた。恐らく2人はこの時「ちなみはキミ子と元夫の宝石商の娘で、千尋の従姉妹に当たる人物」だと知ったと思われる。半年間に渡るちなみの捜査に伴い、千尋と神乃木は以前にも増して親密になって行き、最終的には恋人同士となった。その矢先に訪れた2012年の夏、神乃木は単独でちなみとの接触に成功し、彼女に対する聞き込みの許可を得る。しかし、これは執念深く自分を追跡する弁護士2人を疎ましく思っていた「ちなみの罠」だった。8月27日、会談の場所に選定された『地方裁判所』のカフェテリアにて、ちなみは神乃木の隙を突いて彼のコーヒーに致死量の毒を盛った。この時に使用された液体の毒薬も、尾並田を自殺に追いやった物と同じ、あのペンダントの小瓶を容器にして携帯していた。毒入りコーヒーを飲まされた神乃木は卒倒し、そのまま5年間にも及ぶ昏睡状態に陥った。彼が意識を失うと、即行でちなみは逃げ出し「唯一の致命的な証拠品となり得る、毒薬の入っていたペンダントの処分」を図り『地下資料室』へと逃げ込んだ。


そこで偶然、弁護士を目指して勉強していた大学生・成歩堂龍一を見かけると、再び彼女は悪知恵を働かせる。「成歩堂という事件とは無関係で、身体検査をされる事の無い人物」を持ち前の美貌と演技力で騙して、ペンダントをプレゼントと装って押し付けたのだ。ちなみは「一目惚れしたから交際して欲しい。出会いの記念品として、このペンダントを受け取って貰いたい」と成歩堂をまんまと騙すのに成功した。突然の魔性の美女からの告白に舞い上がった彼は、嬉々として交際の申し込みを受け入れた。こうして彼女は半年前の裁判に続いて、またしても事件の最有力容疑者と扱われながらも、自分に恋する男性を利用して司法関係者達の追求を回避したのだった。


この毒殺未遂事件で使用された毒薬は、ちなみが通う『勇盟大学』の薬学部から盗み出した特殊な物で、そこに在籍していた呑田菊三の恋人になる事で、いつでも薬学部の部室に出入り出来る立場を手に入れ、好きな様に毒薬の調達を可能とする環境を整えていた。使用する毒薬は「大学の薬学部で独自開発されている薬品」であるが故に、警察に入手経路を知られる事も防げる優れ物だった。だが本来は薬品のサンプルだった毒薬が彼女に盗まれたと察知した呑田は「ちなみは危険人物」と見抜いて別れを望む様になった。その矢先に彼女の方から「成歩堂と付き合いたいから別れて欲しい」と願い出たのを好機と見た呑田は、忌々しく思っていた恋人とすっぱり別れられた。偶然の一致だが、成歩堂も『勇盟大学』の生徒だったので、ちなみにすれば彼との交際は始めるのも続けるのも簡単だった。


「最愛の人にして最大の味方・神乃木までもが、ちなみの毒牙に掛けられて昏睡させられた悲劇」を千尋は嘆き悲しむ。自分を追う弁護士カップルを卑劣な手段で引き裂いておきながら、ちなみは身勝手にも「行く行くはペンダントを回収する為だけの打算目的」で成歩堂との交際を始める。だが辛うじて逮捕こそ免れているものの、警察に厳重にマークされていた彼女自身は自由な行動が取れずにいた。そこで、ちなみは双子の妹あやめに「自分に成り済まして成歩堂と交際して、隙を見てペンダントを回収して来い」と命令した。前々から「これ以上ちなみに罪を重ねて欲しくない」と願っていた、あやめは姉の言いなりになって、成歩堂の交際相手を務める様になった。千尋が哀しみに暮れる中ちなみの捜査を1人で続行しながら、健気に恋人の神乃木の目覚めを待ち続ける裏で、成歩堂とあやめの交際は順調に進んで行く。


最初あやめは「すぐにペンダントを取り返して、彼との縁を切ろう」と考えていたが、次第に成歩堂の誠実さや正義感の強さに惹かれて行き、やがて彼を本気で愛する様になった。交際当初から彼女にベタ惚れだった成歩堂も「献身的に自分に尽くす、理想の恋人あやめ」に益々、魅了されて行く様になった。仕舞いには「四六時中・色ボケ状態」になり果て、あやめからの「ペンダントを返して欲しい」という訴えを「彼女の照れ隠し」だと誤解して、悪気は無かったものの無視する様になってしまう。おまけに行く先々でペンダントを「運命の人から贈られた宝物」だと自慢して回った。「このまま放置していては最悪、彼の愚行が元で足が付く」と危険視したちなみは妹を急かすが、恋人の成歩堂と一緒にいたい気持ちと生来の大人しさから、あやめは彼に強く出る事も出来ず、ペンダントを取り返すのに手間取ってしまう。彼女は必死で姉に「もう少しだけ待って欲しい」と懇願を繰り返す様にもなった。


成歩堂とあやめの交際は「あやめが姉ちなみに成り済ますという嘘」が含まれてはいたが、2人の恋人に対する愛情は紛れもなく本物であった。交際開始から数ヶ月後には、幼い頃より姉に依存しがちだった、あやめの彼への思いは「万が一ちなみが成歩堂を殺すつもりなら、自分か姉が命を落とす結果となろうとも彼を守りたい」と覚悟を決める程に強くなっていた。ちなみも早い段階で妹の心変わりに気付いていたが「自己保身の為、迂闊な行動をする訳には行かない」と我慢してあやめの懇願に応じ続けた。そうして半年が過ぎた頃。いよいよ我慢の限界に達したちなみは「成歩堂の口封じ目的の犯行」を実行するべく、初めて妹には事前説明をせずに単身で独断行動に走った。


千尋と成歩堂の邂逅(『逆転裁判3』第1話『思い出の逆転』)

2013年4月。ちなみは成歩堂が風邪を引いたのを良い事に「彼の風邪薬に毒薬を仕込んで毒殺し、ペンダントを強奪するという強硬手段」に出る。ところが今回の殺人計画も懲りずに、元彼となった「呑田のグループが使用する研究室」から毒薬を盗み出した為、またもや彼に犯行に気付かれる羽目となる。更にある程度「神乃木毒殺未遂事件」も知っていた呑田は「再びちなみが誰かを毒殺しようと企んでいる」と察し、成歩堂を密かに呼び出すと「ちなみは毒薬を盗んでいる。彼女とは、もう会わない方が良い」と忠告した。恋人を悪く言われたと思った成歩堂は逆上して、呑田を電柱に向かって突き飛ばして去って行くが、その衝撃で老朽化していた送電線が切れた。物影から一部始終を見ていたちなみは計画を変更し「呑田を送電線に突き飛ばして殺害し、その罪を成歩堂に着せる事で2人の口封じをする犯行」に及んだ。彼女は呑田が起き上がった瞬間、先程切れた送電線に突き飛ばして感電死させ、成歩堂が容疑者とされる様に現場工作を施した。


数分後、成歩堂が呑田に突き飛ばした事を謝罪しようと現場に戻って来た時、既に彼は息絶えており、遺体の側にいたちなみからは「私がいた事は黙っていて欲しい」と頼まれる。その直後に現場へ駆け付けた警察によって、成歩堂は呑田殺害容疑で逮捕される。後日の裁判にも彼女は「目撃者の証人」を装って出廷し、成歩堂を殺人犯に仕立て上げて社会的に抹殺する事で、彼の口を塞ごうと図ったのだった。事件翌日、開廷された裁判では当初、成歩堂の担当弁護士は星影が務める予定だった。しかし「ちなみが事件関係者にいる」と知った千尋は師匠に懇願して急遽、成歩堂の弁護の担当者となった。


そして半年ぶりに法廷にて再会した、千尋とちなみは再戦を繰り広げる。証人として登場した「魅惑の美女ちなみ」に法廷中の男性が魅了され、あろう事か裁判長と担当検事・亜内武文までも彼女の虜となって味方に付いてしまい、証人も担った成歩堂も相変わらず、ちなみを盲信し擁護する姿勢を取った。前回は神乃木、今回は星影と「唯一の助手以外、協力者がいないという劣勢」に立たされる千尋であったが、弁護士資格を投げ出す覚悟で成歩堂の無実をひたすらに信じ、恋人の仇ちなみの告発を成功させる為にも真相を解明しようと奮闘する。当初は「成歩堂を助けたい。彼が人殺しなんてする訳ない」と恋人の弁護を主張したちなみだったが、何としても千尋の追求から逃れようとする余り、次第に証言の内容は変化し、成歩堂を追い詰める発言が次々と飛び出す。


肝心のペンダントはと言うと、未だに成歩堂の所有物のままで、休憩時間中に控え室でも千尋と星影にも見せびらかし、ちなみの犯行が2人に暴かれる一因となった。それから数十分後。ペンダントも弁護側の重要な証拠品として利用されるが「ちなみの致命傷となり得る証拠品」だった為、彼女を守ろうと成歩堂は暴走し千尋に捨て身タックルを喰らわせると、証拠隠滅を目的にペンダントを強奪し食べてしまった。この為ちなみの告発を目前に新たな障害が増える羽目になった。この信じ難い暴挙に出ても尚、依頼者の自分を救おうと力を尽くす千尋の姿に、今まで審理中も盲目的にちなみを溺愛する一方だった、成歩堂の心に変化が生じ始める。


懸命に自分を信頼して弁護を続ける千尋。段々と自分を見捨てる意向を露わにして行くちなみ。2人の狭間で揺れる成歩堂は「信頼を重んじる信条」から徐々に千尋に心を開く。裁判の終盤にて彼は、ちなみに口止めされていた2つの事実「呑田からの忠告の詳細」「事件当時、呑田の遺体の側にいたちなみの目撃」の暴露に及ぶ。この証言が突破口となって、ようやく千尋は彼女の告発に成功する事となる。かくして裁判長曰く「清楚で可憐で金鳳花の花弁の様」とも称された、美人令嬢ちなみは化けの皮を剥がされ「残忍な美人そのものの本性、千尋に向けた悪魔の様な怒りの形相」を露わにした後、半年前と今回の事件での犯行が立証されて、ついに緊急逮捕されるのだった。


閉廷後、控え室で千尋は「愛弟子の初勝訴」に感動した星影に祝福される。依頼者への信頼を胸に戦う彼女の姿勢は、師匠を感心させ「我々ベテランは「依頼人との信頼関係」を見失っていた」と初心に立ち返る機会をも与えた。一方、無罪判決を言い渡された成歩堂は未だに恋人の本性が信じられず「もしかしたら今日の彼女は、良く出来た偽者だったんじゃないか」と泣き喚いていた。宿敵の千尋からは悪魔呼ばわりされる程の醜悪な本性を隠し持ち、本性を露わにすると千尋にも成歩堂にも悪態をついて暴言を吐きまくった、ちなみの姿を目の当たりにした後も、愚直にも彼女への信頼を捨てようとしない、成歩堂の思考に「まだ懲りてないのか」と千尋は呆れ果てる。彼女は成歩堂に「ちなみの事は忘れた方が身の為」と言い聞かせると、続けて「何故、弁護士を目指しているのか」と尋ねる。


かつての千尋と同じく彼もまた、家族と親友という対象の違いこそあれど「大切な人を救う為、弁護士を目指す人物」なのは奇しくも共通していた。成歩堂は断片的に「幼馴染を助けたいから」と明かすと、いつか弁護士になれる未来を信じて「法廷での再会」を千尋に約束すると彼女と別れた。具体的な説明は無かったので、当時の千尋は知らなかったが、彼女の初裁判の対戦相手・御剣こそが成歩堂が救いたい相手だった。それから暫くして千尋は星影の元から独立し、自身が所長を務める『綾里法律事務所』を開設する。程なくして大学での事件を通じて知り合った、成歩堂から弟子入りを志願され、師弟関係及び上司と部下となった千尋と彼は、二人三脚で事務所の経営に乗り出すのであった。


美人弁護士殺害事件(『逆転裁判』第2話『逆転姉妹』)

2016年8月。念願叶って弁護士に就任した成歩堂は初裁判を迎える。初めての依頼者は、もう1人の幼馴染・矢張政志であった。彼を陥れた真犯人が小物の中の小物だった為、難なく初勝利を収めた弟子を千尋は誉め称える。師匠の彼女が助手となって、的確に成歩堂をサポートしたからこそ得られた勝利でもあった為、矢張は成歩堂と千尋に深く感謝し、お礼の品として自作の『考える人の置き時計』を彼女に贈る。この時計を千尋は「部下の初勝利の記念品」として所長室に飾った。師弟揃って成歩堂の弁護士デビューを喜んでいたのも束の間。1ヶ月後の2016年9月、この時計は思いがけない災厄をもたらす事となった。


ちなみの始末後、千尋は本来の目的である「母を破滅させた事件」の捜査を再開し、神乃木の様な犠牲者を出したくないとの思いから、単独で極秘捜査を進めていた。彼女は里を出る直前、関係者の霊媒を通じて「星影から舞子の捜査協力の情報を買い取って、大々的に世間に公表した張本人は小中大」という事実を既に知っていた。後は小中と彼の経営する悪徳企業『コナカルチャー』の犯罪行為さえ暴いて告発に成功すれば、母の仇討ちを達成出来る段階に到達していた。十数年にも渡る孤独な戦いの果てに、とうとう千尋は小中を失脚に追い込む決定的な証拠『脅迫被害者の名前リスト』を獲得する。『コナカルチャー』は権力者や富裕層の人間を標的にして、相手の弱味となる情報を入手し脅迫材料に用いては、高額の金品を恐喝して私腹を肥やす悪徳企業であるが故に、被害者達が誰なのか公表してしまえば無力化させられるのだ。勝利は目前だと慎重に告発の準備を進行させる千尋だったが、小中もまた以前から「自分の背後に迫る彼女の存在」には気付いていた。彼は先手を打って『綾里法律事務所』に盗聴機を仕掛け、事務所の向かいにある『板東ホテル』に秘書の松竹梅世と共に宿泊し、盗聴を利用して千尋の動向を伺う。


盗聴によって小中と梅世は告発へのカウントダウンが始まったと知ると「千尋を殺害し『脅迫被害者の名前リスト』を強奪して口封じする計画」を組み立てる。殺人とリスト強奪の実行犯は小中が担い、ホテルに留まっての現場工作と盗聴、後日の法廷での偽証は梅世が担った。数年前から「小中が恐喝相手の盗聴の常習犯」なのは千尋も認識していたが、流石に只の追跡者でしかない自分の盗聴まで行うとは読めず、ついに殺人計画の実行の時が訪れる。9月5日の深夜1人で事務所に残っていた千尋は、いつも通り妹の真宵に「重要な証拠品を一時的に預かって欲しい」と依頼する。今回は『考える人の置き時計』とその中に入れた『脅迫被害者の名前リスト』が対象となった。姉からの依頼に応じた真宵は「今すぐ事務所に向かうから、お礼として味噌ラーメンを奢って欲しい」と言い出し、それを受け入れた千尋は事務所で妹を待つ事にする。綾里姉妹の会話を盗聴していた小中と梅世は「これから事務所を訪問する真宵に姉殺しの罪を着せられる、今夜が千尋を殺す絶好のチャンス」と踏んで、いよいよ殺人計画を実行に移す。


小中は『綾里法律事務所』に侵入し、その場にあった『考える人の置き時計』で千尋を撲殺すると、所長室を荒らし回って『脅迫被害者の名前リスト』を強奪する。そして真宵の犯行と警察に誤認させる為、彼女の名前を書いたダイイング・メッセージを偽造し、現地調達した凶器『考える人の置き時計』は現場に捨て置いて逃走した。小中の指示に従って盗聴と並行して、ホテルの窓から千尋殺害の経緯を監視していた梅世は、真宵が千尋の遺体の第一発見者、成歩堂が第二発見者となった時を見計らって「単なる目撃者」を演じて故意に警察に通報し「真犯人は真宵」だと強調して説明した。小中と梅世の計画通り、真宵は千尋殺害容疑で逮捕されてしまう。「何年も前から司法関係者の大多数は、既に小中による脅迫の被害者と化していた事」が原因で、真宵の担当を請け負う弁護士は1人も現れなかった。


当初は成歩堂と真宵に「千尋の師匠だから助けてくれる」と期待されていた星影も「DL6号事件当時から今に至るまで、小中の脅迫被害者となっていた立場」から、恐怖に屈して2人を見捨ててしまう。一方、成歩堂が千尋の弟子だと知ると「これも何かの運命」と彼に一縷の望みを掛けて、幾つかの重要な情報を提供した。幼い頃の父の死と母の失踪、今回の姉の殺害を経て、天涯孤独となってしまった真宵の境遇を見かねて、成歩堂は自ら彼女の担当弁護士に志願する。その後「正式な真宵の担当者」と認められた彼は独自捜査に身を投じて、後世にて「美人弁護士殺害事件」と呼称される、今回の事件の真相へと迫って行く。


元々、小中は梅世だけに偽証を任せる予定だったが、彼女が罪を暴かれて逮捕されると、自身も証人として出廷し偽証を働くも、あえなく秘書と同じ轍を踏む結果となった。最終的には数日前、自らの手で葬った千尋は真宵に霊媒されて復活し、彼女が即席で復元した『脅迫被害者の名前リスト』を成歩堂に音読されると、年貢の納め時を迎えた小中は千尋の殺害を自供して逮捕された。かくして2度目の勝訴を手にした弟子・成歩堂を千尋は祝福し、彼が亡き師匠から受け継いだ『綾里法律事務所』は『成歩堂法律事務所』に生まれ変わった。その所長に成歩堂は就任し、真宵は恩返しの為にも彼の助手に就任した。一連の経緯を経て結成された名コンビは、幾多の難事件を解決へと導いて行く。


DL6号事件の解決(『逆転裁判』第4話『逆転、そしてサヨナラ』)

姉の死を契機に生まれて初めて「霊媒師としての覚醒」が始まった真宵であったが、それだけに生まれつき微弱かつ不安定な霊能力は、意図せずしてスランプに陥ってしまう。10月に発生した『逆転のトノサマン』の事件では少々のトラブルが起きたものの、終始一貫して千尋の霊媒は有効活用に成功した上に、期せずして担当刑事・糸鋸圭介や担当検事・御剣の助力もあってスムーズに解決させられた。前回の様な助けが得られないのが確定している状況で、今年最後の事件がクリスマスに起こる。弁護士・生倉を射殺した容疑で、御剣が逮捕されてしまったのだ。今回は容疑者と被害者の関係を始めとする、多くの事柄が謎に包まれている上に、担当検事は「40年間無敗の伝説の検事」と誉れ高い狩魔豪であった。弁護士の誰もが尻込みする中「今こそ15年前から待ち続けていた、親友の御剣を救う時だ」と確信した成歩堂は彼の担当弁護士を請け負う。


千尋が呼び出せない中、部下として御剣を慕い、彼の無実を証明する同志となった糸鋸、千尋殺害を受けて己の過ちを猛省し、今回は一転して心強い味方に加わってくれた星影の協力を得て、成歩堂と真宵は懸命に捜査に当たる。捜査が進展する内、事件現場である『ひょうたん湖』の『貸しボート小屋』の管理人の正体がDL6号事件の容疑者・灰根高太郎であり、生倉は彼の担当弁護士であった事、そして御剣自身もDL6号事件の関係者であり、被害者は彼の父である御剣信弁護士だったと判明する。その日、怜侍は父親の信と同行していた所、停電したエレベーターに父と灰根と共に閉じ込められ、争いを始めた2人を止めようと「灰根の所持していた銃」を彼らに投げつけて暴発させてしまった。数時間後、酸欠で気絶していた怜侍と灰根は救出されるが、信は射殺体となって発見された。事件当時の状況が災いして、舞子に霊媒された信に訴えられた灰根は容疑者とされ、生倉の心無い弁護の犠牲者となって全てを失った。灰根は生倉は勿論、拳銃を投げた事で自分に嫌疑が掛かる切っ掛けを作った怜侍も恨んでおり「彼こそが誤って信を殺害した真犯人」と疑ってもいた。生倉を殺し、その罪を御剣に着せる事で、灰根は自分を破滅させた男達に復讐しようと図ったのだ。


灰根はDL6号事件後は隠遁生活を送っていたが、彼の元にある日「生倉と御剣への復讐を教唆する手紙と凶器となる拳銃」が送られ、これに感化された灰根は手紙の指示に従って復讐の実行へと走ったのだ。この手紙の送り主こそがDL6号事件の真犯人にして、生倉殺害の黒幕である狩魔であった。彼は自分の完璧な経歴を傷付けた信を逆恨みから殺害し、エレベーターの前に居合わせた自分の右肩に銃創を刻んだ怜侍に、信と生倉を殺害した罪を着せる事で「忌まわしい親子2人への復讐」を完遂させようと企んでいた。灰根も御剣に有罪判決が下る様に自身も証人として出廷するが、そこで成歩堂に犯行と正体を暴かれる。本来は真っ当な人間である灰根は「生倉への復讐を果たせただけで十分」と語り、潔く罪を認めて警察に連行された。だが真犯人・狩魔の打倒は困難を極めた。先日、彼に襲撃されて決定的な証拠な証拠を奪われていた為、成歩堂は「真相は解っているのに証拠不足で告発に踏み切れない苦境」に立たされる。真宵も必死で千尋の霊媒を試みるが難航する。そんな時、成歩堂の心の中に朧気ながらも「自分に助言を与える千尋の姿」が浮かび上がる。千尋は「狩魔の右肩には今尚、事件当時から消失した2発目の弾丸が埋まっている」と示唆し、その事実を手持ちの金属探知機を使って証明した事で、成歩堂は御剣の無罪を証明し、狩魔の告発にも成功する形で勝利を収めた。千尋の霊は、記念写真で弟子と妹、2人の形見を見守るように映っていた。

関連記事

親記事

子記事

兄弟記事

pixivに投稿されたイラスト pixivでイラストを見る

pixivに投稿された小説 pixivで小説を見る

このタグがついたpixivの作品閲覧データ 総閲覧数: 423

コメント

問題を報告

0/3000

編集可能な部分に問題がある場合について 記事本文などに問題がある場合、ご自身での調整をお願いいたします。
問題のある行動が繰り返される場合、対象ユーザーのプロフィールページ内の「問題を報告」からご連絡ください。

報告を送信しました