一般論としての「女性向け」
「女性向けファッション誌」を男性が呼んでも多くの場合役には立たないように、一般的に「女性でない人≒男性」の利用を想定しておらず、「男子禁制」的なニュアンスが込められている事が多い。
他方で歴史的な経緯から、必ずしも対義語が「男性向け」になるとも限らず、むしろ「一般向け」になっている場合も多々ある。
例えば近年増加した「女性向け作業服」では、サイズさえ合えばそれ以外の物を選んでも基本的に問題は無い。むしろその事で性能に差が出る方が問題である。
これは長年「作業員≒男性」という暗黙の了解の下で設計されてきたものに、後から「女性向け」の要素を付加したために生じた事例で、こうした場合では「不要不急の装飾」というニュアンスが強くなる。
もっとも、あえて男性がそれを選択する動機は生じにくいため、引き続き「男子禁制」的なニュアンスも残り続ける傾向にある。
逆に言えば、後者の場合コストなどの面で女性が「女性向け」以外を選択する動機は生じやすいため、単純に選択肢が増えるという事になりやすい。
前者にしても、ある程度までなら男性的な格好を認めるという社会は多く、かえって不平等感を感じる男性も少なくない(ならば自分達も「女性向け」の使用を広めればいいじゃないかと思うかもしれないが、そう簡単には行かないのが複雑なオトコゴコロである)。
近年、「女性向け」などといったような一切の性差をなくせとして、様々な運動が目立つようになってきたが、そうした先に待つのは一切の美が均質化・封印された刑務所のような世界なのかもしれない。地獄への道は善意でできているのだ。
注意
現代日本においては、はっきりとどちらかに分かれるよりもむしろ、その中間的な位置付けにあって多かれ少なかれ両者のニュアンスを併せ持っている事例の方が多い傾向にある。
その是非はともかく、現実的には
- あくまで「女性向けとされるもの」に過ぎず、「全ての女性が好むもの」ではない。
- あくまで「女性向けとされるもの」に過ぎないが、「実際男性は好まない」可能性が高い。
という感覚を持っておいた方が無難だろう。
合理的理由無く嫌がる相手に押し付ける事、それがすなわち差別やハラスメントである。
創作における「女性向け」
さて、現代二次元文化の源流となる文学においてもこの線引きは例外ではなく、しかも日本では割と前者に寄ったニュアンスで理解されていた。
『土佐日記』の作者紀貫之が俗に「ネカマの源流」とされているように、かつては文字そのものに「男性向け」と「女性向け」があったほどである。
時代が下ると流石にその垣根は低くなっていったが、明治維新以降の社会変化で再び高くなる傾向が見られた事も特徴である。当時は「男性と女性を全く別の生き物として扱う」事が「近代的」とされ、その考えを基に教育も出版も整備されていったからである。
女性を表す記号の一つである「女言葉」も、現存するものの多くはこの時代に「発明」され、再生産された結果であると言われている。
また当時の価値観では、現代の「ゲーム脳」と同等かそれ以上の嫌悪感でもって「小説は不良の読み物」などと捉える向きが強かった。
何故「文豪」と呼ばれる人達は男性ばかりなのかという所にも繋がってくる事象であるが、男性ですらそのような扱いだったのである。いわんや(貞淑であるはずの)女性をや、というわけで女性が触れる文章には検閲ばりの「厳選」が重ねられた。
これらの風潮は日本が民主化を遂げてなお残り続け、そのため少女漫画も手塚治虫ら他ジャンルで大成した男性作家が長らく牽引し続けたのである。
そもそも「女性向け漫画」というジャンル分け自体が国外では必ずしも一般化していない。
我々はその延長線上にいる事を理解しておく必要がある。
一見フリーダムなようでいて、その実とても保守的な業界なのである。
オタク創作における「女性向け」
長らくオタクの世界は(アニオタにせよ鉄オタにせよ)9割以上男性で構成されていたため、インターネットで先に出てきたのも男オタク向けの文化であった。
腐女子が台頭したのが2000年代中頃ぐらいで、ロボットアニメやジャンプ漫画などの腐女子を意識しつつも男子向けの系譜であるコンテンツに相乗りしている形であったので、pixivなど両者が合流するところでは争いを避けるため「腐向け」を付けて棲み分けする必要に迫られた。
BLでない女性向けコンテンツの台頭はさらに遅かった。腐女子の台頭が早かったため、「女オタク=腐女子」の構図が定着し、腐でない女オタクは著しく存在感が薄くなってしまう。当時中川翔子がオタクネタをやっていただけであれだけ注目されたのがそれを象徴している。
実は「腐向け」というジャンルは歴史的には比較的成立が新しく、以前は「女性向け=カップリングやオリジナル/二次創作の別を問わず、女性が好みそうなコンテンツの総称」という大きな枠組みで用いられていた。
といっても「女性向け」の時点で興味を失った男性にとっては、その先でどう細分化しようと知った話では無いわけで、そのため現在でも「女オタク」と「腐女子」を同じニュアンスで用いる「オタク」も一定数いたりする。
良い悪いは別として、「女性向け」タグが同様の作品を探しやすくためと言うよりも、むしろマイナス検索で弾きやすくするために求められている現実は確実にあるのである。
彼らにとっては「腐向け」とそう変わらない地雷だという事である。
以上の経緯から、「男性向け=正統・王道、腐女子向け=準正統・王道、女性向け=異端・邪道」と位置付ける向きは現代でもあたりまえに残っており、「オタク」と呼ばれる人種の中にすら「女性向け」を「特殊嗜好」や「上級者向け」と同義と捉える人は普通にいる。
では、具体的に何が「女性向け」とされるのか。
これまでの流れを踏まえれば、極論「男性的でないもの」全てをそう認定する事も可能であるが、流石にそれは乱暴であろうから最大公約数的に以下の点に着目してみる。
そうした要素があると「女性向け」とされやすい傾向がある。
1~3全てを満たす「草食系男子」や「イクメン」などは典型的な例で、実際に二次元・リアルを問わず幾度と無く論争が起きている(その是非はここでは問わないにしても、特殊な名称が付けられている時点で「普遍的な存在ではない」という事は頭に入れておくべきである)。
もちろん批判者が全て「一般」や「世間」を代表する存在とも限らないのだが、ことこのような男性の描写を巡っては同性を中心に「生理的に無理」という声が上がりやすく、あまり無下にできるものでもない。
また、「かわいい」「華奢」「妖艶」といった評価も、女性にとっては褒め言葉になりがちだが、男性は侮辱と受け取りがちである。
ある程度鍛えている「細マッチョ」ですら「カマホモ」呼ばわりしたり、美少年が複数同時に映るだけで「腐向け」認定する人さえいるくらいである。特に作者が女性の場合、余程の自信が無い限りは「とりあえず女性向け指定」ぐらいの勢いでタグ付けしておく方が無難かもしれない。
窮屈に思われるかもしれないが、これでもpixivは寛容な部類の環境である。
関連タグ
基本的に男性の読者・視聴者を想定していないジャンル
女児向け | 10歳くらいまでの少女向け作品の総称。副次的に保護者、特に母親をターゲットにしている。例外的に興味を示す男性も多いが・・・ |
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少女漫画/女性漫画 | 女性をメインターゲットとしている漫画。女主人公と男女の恋愛描写の割合が高い。 |
レディースコミック | 男女の性愛を描いた、成人女性向けポルノ漫画。市場の縮小による統廃合で「女性漫画」との境界が曖昧になってきている。 |
ティーンズラブ/TL | 「レディースコミック」から派生した、若年層に特化した女性向けポルノ作品の総称。 |
ハーレクインロマンス | 男女の恋愛を描いた、女性向け恋愛小説。テンプレ化が進んでおり、ほぼすべての物語が「社会人の女性が、社会的地位が高い魅力的な男性とすったもんだの末に結婚し成功する」という筋書きになっている。 |
乙女ゲーム | 女性プレイヤーと男性キャラクターとの恋愛要素を含むゲームの総称。 |
シチュエーションCD | 人気男性声優による、シチュエーションに沿った演技が収録されているCD。聞き手に関係なく進むドラマCDと違い、男性声優が聴き手に語りかけてくる。 |
夢小説/夢漫画/夢絵 | 男性キャラクター×自分(あるいは自己投影するためのオリキャラ)のカップリングを描いた二次創作の総称。 |
ボーイズラブ/BL/腐向け/メンズラブ | 男性同士の性愛を描いた、女性向けのコンテンツの総称。少女漫画やハーレクイン由来の要素が多く、ゲイ向け作品とは明確に区別される。女性向けオタクコンテンツで最大の存在感を放っている。 |
混同されやすいが「女性向け」とは言えないジャンル
ブロマンス | 2人もしくはそれ以上の男性同士の親密な関係性の総称。親友、チームメイト、師弟、上司と部下などで、基本的に恋愛感情を含まない。 |
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ガールズラブ/百合 | 女性同士の性愛を描いたコンテンツの総称。かつては「女性向け」とされていたが、現在では「男性向け」に傾く傾向にあり、「萌え系」との境界が曖昧になりつつある。 |
当然の事ながら、これらの中にはさらに小分類が設けられている。各地のローカルルールに従い、適切なタグ付けを心掛けてほしい。
また、「リョナ」のような特殊性癖を表すタグはこれらとは別立てである。そうした要素が含まれる場合は別途タグ付けする事を忘れないように。
ダサピンク現象:「門外漢が「女性向け」を作ろうとして誰得な代物ができあがる」といった意味のネットスラング。「お前の勝手なイメージを押し付けるな!」という教訓である。